資金繰りをショートさせないために!在庫には要注意
2018年06月30日
- 経営
今回のコラムでは、棚卸資産(在庫)が企業のキャッシュを減らす原因の一つになっていることについて見ていきたいと思います。
棚卸資産とは企業、販売する目的で一時的に保有している商品・製品・原材料・仕掛品の総称です。
棚卸資産の形は有形であったり無形だったりしますが、今回はあまり難しく考えずに単に残っている在庫と考えましょう。
企業は、商品又は製品、サービスをお客様へ売ることによって、キャッシュを得ることができます。
また、商品や製品の原価を安くするために、一度に大量に購入又は生産することによって、商品及び製造に係る原材料等を取引先から値引きして貰ったり、大量に作ることによる配送費、人件費、手間等の製品に関わる経費を減らしたりという、企業努力をしています。
そうした努力により、安く手に入れた商品・製品を売ることによって、企業は利益を出し、キャッシュは貯まっていきます。
しかし、それはあくまで商品・製品が売れる事が前提です。
もしも商品・製品が売れずに在庫として残ってしまったらどうでしょう。
在庫をたくさん持っていても、全部売れるとは限りません。あるいは全て売れるには時間がかかります。
商品が売れず在庫が増えれば、それだけキャッシュは入ってきません。
安くなるから、という理由で大量に購入した商品は、キャッシュにならないで在庫として眠ってしまいます。
企業はキャッシュがなくなれば、途端に会社がつぶれてしまう危険が発生します。企業がつぶれてしまうということは、経営者だけでなく、会社の従業員、取引先とその従業員、銀行の担当者等、そしてその家族にまで影響が及ぶこともあります。
それではここで商品の購入について、簡単な例でキャッシュをみていきましょう。
資本金2,000円を元手に八百屋を開いた会社があるとします。
元手となった2,000円で1個あたり100円のリンゴを20個、現金で買いました。
2,000円の現金が商品(棚卸資産)に変わりました。
これを1個あたり150円で20個すべて現金で売りました。
収入として現金3,000円、資本金2,000円を差し引いた結果1,000円の利益をあげました。
キャッシュはリンゴを買うために2,000円支出し、リンゴを売った3,000円が収入として入りました。
結果としてキャッシュは1,000円増加しました。
黒字でなおかつキャッシュも増加しています。
リンゴ売上 3,000円
リンゴ仕入 △2,000円
差引利益 1,000円
資本金 2,000円
リンゴ仕入 △2,000円
リンゴ売上 3,000円
キャッシュ増減 1,000円
在庫をすべて売り切ったという商売です。利益とキャッシュは一致しています。
それでは仕入れたリンゴが残ってしまったとしたらどうでしょう。
1個あたり150円でリンゴは10個しか売れませんでした。
結果としてリンゴは10個在庫として残りました。
収入として現金1,500円、棚卸資産として1,000円、資本金2,000円を差し引いた結果500円の利益があがりました。
リンゴ売上 1,500円
リンゴ仕入 △1,000円
差引利益 500円
しかし、キャッシュとしてはどうなっているでしょうか。
リンゴを買うためにキャッシュを2,000円支出したのに、今回はリンゴを売ったことにより、キャッシュは1,500円しか入らず、黒字なのに、キャッシュは500円のマイナスとなってしまいました。
資本金 2,000円
リンゴ仕入 △2,000円
リンゴ売上 1,500円 (リンゴが10個1,000円在庫)
キャッシュ増減 △500円
こうなってしまった原因は、在庫が残ってしまったからです。
この残ったリンゴはどうするべきでしょうか。売れるまで頑張るしかありません。
どうやって売りましょうか。
例えば値引きをして120円で売るか、果ては買った時と同じ100円で売るか、売れ残るよりキャッシュにしようと80円で売ったりすることになるかもしれません。
時間が経てばリンゴは腐ってしまいます。
腐ってしまえばもう捨てるしかありません。
いや、ウチは腐らない工業製品を作っているから大丈夫だよ、と思う企業の方もいらっしゃるかもしれません。
確かにリンゴを売るよりはリスクは少ないでしょう。
しかしその商品や製品はどこに置けばよいでしょうか。
売り場に置いておけばいいかもしれませんが、そのまま置いておいても売れるとは限らず、もっと売れる商品に替わってしまうかもしれません。
製品なら倉庫に置いておけばいいのですが、倉庫も無限ではありませんし、維持費もかかります。
しかも在庫として残ったままになっている期間は、もちろんキャッシュは増えません。
また、仕入にキャッシュを使ってしまったことで、運転資金が不足したらどうでしょうか。
毎月の給与、銀行に返済、消費税等高額な税金の納付、支払手形の引き落とし、車検や広告宣伝など・・・企業が使うべきお金は仕入以外にもたくさんあります。
給与の支給が滞れば従業員の士気が落ち、銀行への返済や税金の納付が滞れば利子や税金を追加が発生し、取引先への支払いが滞れば信用問題に関わります。
支払手形が引き落とせなかったら不渡りとなり、最悪の場合は倒産してしまいます。
キャッシュが枯渇すれば、仕入れたものを値下げしてでも売ったり、社長自ら身銭を切ったりして、急な支払いにあてなければならないでしょう。
商品・製品を売るためには、在庫は必要です。在庫がないと売上のチャンスロスとなることもあります。
ただ過剰な在庫保有により、手元のキャッシュがなくなってしまうことだけは避けたいものです。
PROFILE

菱刈 満里子
大学卒業後、大手証券会社、文部科学省研究室秘書等を経験後SMC税理士法人に入社。 会計・税務業務に13年間携わった後、経営計画を中心とした未来経営に軸足を移す。 のべ150社以上の経営計画を作成、経営支援を行っている。