投稿日:2019年01月13日
更新日:2023年08月28日
この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。
今回のコラムでは役員貸付金の減らし方とメリット・デメリットをお話ししましょう。
役員貸付金とは企業から企業の役員への貸付金のことです。
役員報酬の代替手段、経営者の生活費に充当するため、などの理由で企業から役員に貸付を行う場合があります。規模の小さいオーナー企業の場合には社長の財布と会社の財布が混同されているケースがあります。その場合には会社からオーナーなどの役員に貸付を行う役員貸付金が発生することが珍しくありません。
実際には役員貸付金が恒常的に発生する会社ではどんぶり勘定であり、経費の整理がしっかりしていないことが多いです。
小規模な中小企業の場合には会社のお金と社長のお金の境界線が曖昧なケースがありますが、役員貸付金については帳簿に記録する必要があります。
目次
中小企業の経営者にとって、会社は自分のものだと思われていることでしょう。
自分のお金を出して会社を設立し、その代わりに自分の会社の発行済株式のすべてを所有し、また会社が銀行から融資を受ける際には、連帯保証人になって責任を負うこともあり、なにより自分が経営の判断をし、自分がその責任を負っているのですから、そう思われるのは当然のことかもしれません。
しかし、しっかりと区別を付けないといけないことがあります。
それは会社が持っているお金や、建物、車などの資産は、会社のモノであって経営者のモノではないということです。特に会社のお金と経営者のお金を混同しないことです。
もし会社のお金を社長が使ったら、決算書の一つである貸借対照表に「役員貸付金」という勘定科目で記載されることになります。つまり、会社が経営者である社長にお金を貸していることを表しています。
社長から見れば会社からお金を借りている状態です。しかし会社からお金を借りている感覚を持っていない社長もいます。自分のお金と会社のお金の区別が付いていない社長です。
例えば、クレジットカードでプライベートのものを購入し、その支払いは会社の預金から行っているケースがあります。これも会社からみれば「貸付け」です。ところが、会社からお金を借りているという意識がない社長は、会社のお金を自分のもののように使い、会社にお金を返すことをしません。
一見、貸付金という資産が増えているように見えますが、実際には返済を受けない債権ですから、役員貸付金が膨らんだ分、会社のお金がなくなっているのです。
役員貸付金がある会社は、社長個人が資金を流用し、会社の資金がなくなっている会社だということを証明しているようなものです。
個人で事業を行っている個人事業主には、お給料というものが存在しません。
事業主に対する給料を経費として計上することは所得税では認めておらず、一年間働いて得た利益に対して所得税を納めることになります。
しかし事業主も生活がありますから、給料に相当するお金を引出します。
例えば、毎月お給料として30万円をもらうとすると、年間で360万円を事業資金からお金を引き出すことになります。このときの会計処理は、「事業主貸」勘定で処理されます。
そして、決算が終わったら元入金勘定と相殺して事業主貸勘定は消えてなくなります。
事業主貸勘定は、事業主に貸したお金という意味を持ちますが、決算を過ぎると返済受けることなく消えていきます。
そのため個人事業主の中には、事業資金からお金を借りても返済しなくて良いと思われている方もいます。
この感覚を持ったまま法人成りした経営者は、会社のお金なのに、個人事業主の感覚で会社のお金をプライベートに使って返済しなくなり、役員貸付金となりやすいのです。
役員貸付金のメリットはまったくありません。
役員報酬の一部を費用計上せず、役員貸付金として処理することにより、会社に利益を生み出す方法として用いる場合があります。
税法でも役員貸付金について否認する特別の規定があるわけでもないので、問題はありません。
また、役員貸付金も金銭貸付ですから、受取利息を計上しなければなりません。
会社から見れば受取利息という収益となりますが、この収益も会社に入金されない限り、資金は増えません。
利息を計上しないと、役員に対する報酬の支払いとして取り扱われることになります。
会社の設立年度に利益を出すために、役員報酬の計上をしない会社もあります。
役員報酬がない経営者にも生活がありますから、生活費のために会社からお金を借りた結果、会社の貸借対照表に役員貸付金が計上されてしまいます。
これも回収されなければ、役員報酬を支払ったのと何ら変わらず、現預金は減少するだけです。
役員貸付金が生ずる要因をまとめると下記のとおりです。
役員貸付金にはメリットがなく、あるのはデメリットばかり。
いくつかの税理士法人は役員貸付金について「百害あって一利なし」と断定しています。
法人税等の税金のプロである税理士が役員貸付金について否定的な意見を持っているのは、なぜでしょうか?役員貸付金が多い時に生じる問題や企業への影響について解説します。
デメリットをまとめると下記のとおりです。
役員貸付金が生じる大きな理由は、経営者が個人と会社のお金の区別がついていないことです。
中には、経営者個人がお金に困って会社のお金を借りるというケースもあるかもしれませんが、大半は、会社のお金を私用に流用してしまっているのです。
しかも返済されることがないので、役員貸付金が増えるほど会社は資金がなくなっていきます。
役員貸付金が多い最大の問題は金融機関、特に銀行の印象が悪いことです。
近年では公的融資やベンチャーキャピタルなど資金調達手段の多様化が進んでいますが、東京商工会議所の「中小企業金融に関するアンケート 調査結果」によれば、未だに中小企業の最もメジャーな資金調達手段は銀行のプロパー融資です。したがって、銀行から融資を受けられる経営状態を維持することは中小企業にとって死活問題と言えます。
銀行はお金を貸す際に、その会社の返済能力だけでなく資金の使い方を見ます。役員貸付金がある場合は、資金を経営者が私的に使っていると判断されます。
つまりその会社に貸したお金が、経営者個人に流れるのではないかと疑問を持ち、さらにそれが数期にわたっている場合、役員貸付金の返済は見込みがない資産とみなされてしまうのです。具体的には、役員貸付金が多い企業に運転資金や季節資金などの名目で融資をすると、融資した資金が社長個人の私的利用に流用さえてしまうおそれがあると判断する可能性があります。
この様な理由から役員貸付金を多く計上していると中小企業にとって非常に重要なパートナーである銀行の印象は悪くなります。
貸借対照表を見た時に役員貸付金は会社の「資産の部」に計上されています。しかし、役員貸付金の返済は役員(大抵の場合は社長)の一存であるため、「返済の見込みのない資産」と判断されます。その結果、銀行側の融資審査の際には資産から役員貸付金は除外されます。
さらに実際問題として役員貸付金が多い会社はどんぶり勘定である可能性が高く、銀行はそのような企業の事業の継続性に疑義を持ちます。
このように判断されれば、銀行からの融資を受けることは厳しくなります。
そのため銀行から役員貸付金の完済を求められることがあります。
役員貸付金も貸付金には変わりません。貸付金を受けている役員は会社に対して、利息を支払います。利息の発生は任意ではなく、法律で定められた利率となります。したがって、企業が受け取った利息を計上しないと税務調査の際に指摘されることになります。当然、利息を計上することになります。
利息を受け取ると、利息分だけ会社の利益が膨らみます。法人税は所定の税率を利益に乗じて算出します。結果として、利益が増えるとその分だけ法人税の負担が大きくなります。つまり、利息である収益に対し、法人税の負担が増えることになります。
さらに税法では、たとえ無利息や低金利による利息を受け取っていても、通常の金利相当額を収益に計上することとされており、利息を受け取っていなければ、役員給与として取り扱われることになります。
デメリットである役員貸付金について、完済できないからといって債権放棄をすると、税法では原則として役員賞与としてみなされてしまいます。
この場合の役員賞与は費用として認められず、法人税の負担が増えてしまいます。
役員貸付金は、経営者個人からみれば借金です。
したがって経営者が亡くなったとき、その相続人がその借金を相続により引継ぐこととなります。
役員貸付金が必要以上に増えると、銀行からの資金調達が困難になる、法人税の負担が増大するといった問題が発生します。
必要以上に増えた役員貸付金はできる限り削減することが重要です。
ここからは役員貸付金を削減する方法について解説します。
経営者が会社にお金を入れた場合に計上される役員借入金がある場合には、会社から受ける返済額と役員貸付金を相殺する方法です。
役員報酬の毎月支給を受ける金額の一部を貸付金の返済に充てる方法です。その分手取りが減ることになります。
もし手取り額を減らしたくない場合には、実際に受け取る金額は据え置いて会計上は役員報酬を増額することで、役員報酬の一部を返済に充当できます。
例えば、現在70万円の役員報酬を受け取っている場合に、20万円増額し、増額分を返済に充てます。
ただし税務上、役員報酬については、増額のタイミングを間違えると、増額分の費用が認められず、法人税の負担が増えることになります。こうした負担を増やさないようにするには事業年度の開始から3ヶ月以内に変更の決定をする必要があります。
また、役員報酬の増額によって、役員個人の税負担は大きくなる点に注意が必要です。
上記の方法によっても役員貸付金の返済が進まない場合は、役員が将来受け取る役員退職金と役員貸付金と相殺する方法があります。
退職金は退職所得控除額が控除され、さらに控除の金額の2分の1相当額に対して所得税を計算しますので、個人の所得税の負担が少なく済みます。
ただし、役員貸付金は役員が退職して、退職金を支給されるまで残ります。
経営者個人の生命保険などを担保に、金融機関から借入し会社に返済する方法や、役員貸付金をファクタリングにより債権売却を実施し、それを元手に担保として生命保険に加入する方法があります。役員貸付金がなくなり、会社側は財務改善を行うことができますが、当然ながら社長個人が負債を抱えてしまうため、個人に返済能力がない場合は注意が必要です。
経営者がプライベートで所有する土地や建物、自動車などを会社に売って、その代金で会社に返済する方法です。土地や建物など不動産の場合には、個人名義から会社名義に変更するための移転登記が必要となりますので、司法書士に報酬の支払や登記費用がかかってきます。
また経営者個人について売却益が生じた場合には、譲渡所得として所得税の確定申告が必要になります。
売却代金は、適正価格である必要がありますので注意しましょう。
会社が債権放棄をすることで解消をすることもできますが、その場合は役員賞与として取り扱われる上に、その役員賞与は費用としては認められず、法人税の負担が増えます。ただし、一定の条件のもと、経営者の返済能力がないという場合には、貸倒損失として費用として認められるケースもあります。
役員貸付金が恒常的に発生する企業はどんぶり勘定であることが多く、気づかないうちに役員貸付金が肥大化していきます。
役員貸付金が増えていくと、金融機関、特に銀行の印象を悪くして、資金調達が困難になったり、利息収入が増えて、法人税の負担が大きくなるといった問題が生じます。
本当に必要性がある場合を除いて、役員に貸付をするのは回避すると同時に現在の役員貸付金の削減に努めましょう。
会社を大きくしようとするなら、役員貸付金は会社にとって害になるだけです。
これを防ぐには、やはり、経営者が会社と個人のお金をしっかりと分ける自覚を持つことです。
また、行き当たりばったりの経営をしていると、会社の売上げや利益が伸びず、仕方なく経費や役員報酬の一部を貸付金に振替えてしまいかねません。
そうならないためにも、経営計画を作って、その計画に従った行動をとっていくことが必要です。
会社にキャッシュを増やすことこそが、会社を良くする事です。
役員貸付金は、会社のキャッシュを減らし、銀行の評価を下げてしまいます。
くれぐれも役員貸付金が発生しないよう、注意していきましょう。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 経営改善 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
令和4年~令和5年中に貸付けを行ったものについては法律によって年0.9%が下限と決められています。
法律によって定められた金利分については、役員に対しての利益供与と見做されるので、給与として課税されることになります。
役員貸付金も貸倒引当金を設定する対象です。適正な法定繰入率で貸倒引当金を計上しましょう。
このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。