投稿日:2026年03月25日
更新日:2026年03月25日
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「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」。
ニュースやSNSでよく見かけますが、経営者目線で本当にやっかいなのは、税金の話と社会保険の話が混ざって語られやすいことです。
結論からいうと、税金の壁は主に所得税や配偶者控除・扶養控除の話で、社会保険の壁は主に健康保険・厚生年金の加入や扶養判定の話です。似た数字が並んでいても、意味は同じではありません。しかも2026年時点では、税金側は令和7年度税制改正ですでに動いている一方、社会保険側は現行ルールが残りつつ、将来の改正が決まっている段階です。
とくに106万円の壁は、「もうなくなる」と一言で整理するより、現行ルールはまだ残っていて、今後は中小企業にも適用が近づいてくると理解した方が、実務の感覚に合います。
この記事では、年収の壁を「税金」と「社会保険」に分けて、中小企業の経営者が従業員へどう説明すべきか、実務上どこを確認すべきかを整理します。
まず押さえたいのは、税金の壁と社会保険の壁は担当官庁も制度目的も違うという点です。
税金側は国税庁や財務省が案内する所得税のルールで、基礎控除、給与所得控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などが関係します。令和7年度税制改正では、基礎控除や給与所得控除が見直され、令和7年分以後の所得税に適用されています。さらに令和8年度税制改正の大綱でも追加見直し方針が示されています。
一方、社会保険の壁は厚生労働省・日本年金機構が案内する健康保険・厚生年金のルールです。会社員の配偶者等が被扶養者として保険料負担なく入っている状態から、一定の収入や勤務条件を超えると、自分で社会保険に加入したり扶養を外れたりして保険料負担が発生します。そこで問題になるのが、いわゆる106万円の壁や130万円の壁です。
つまり、同じ「年収の壁」という言い方でも、税金が増えるかと、社会保険料が発生するかは別々に判定されます。ここを分けて説明できるかどうかが、経営者・人事担当者の実務では非常に重要です。
税金側でよく話題になるのは、従来の103万円ラインと、その後の123万円ラインです。国税庁は令和7年度税制改正により、基礎控除や給与所得控除の見直しを案内しており、配偶者控除の対象となる配偶者の所得基準も、令和7年分から合計所得58万円以下、給与収入なら123万円以下へ見直されたとしています。
社会保険側でよく話題になるのは106万円の壁です。これは、短時間労働者が勤務先の社会保険に加入するかどうかを年収換算イメージで表したものですが、実務では単純に「106万円を超えたら全員加入」ではありません。日本年金機構は、現行制度で短時間労働者の加入要件として、週20時間以上、月額8.8万円以上、2か月超の雇用見込み、学生でないこと、そして従業員51人以上の企業等で働いていることを案内しています。
そして130万円の壁は、主に配偶者等の被扶養者のままでいられるかに関係する基準です。協会けんぽや日本年金機構の案内では、被扶養者認定の年間収入基準は原則130万円未満で、60歳以上や一定の障害者は180万円未満です。したがって、税金の壁でいう123万円と、社会保険の130万円は、似たような数字に見えても意味がまったく違います。
中小企業がいちばん困るのは、従業員から「いくらまで働けますか」と聞かれたときに、ひとつの数字で答えてしまうことです。実際には、税金については配偶者控除や配偶者特別控除の影響、社会保険については勤務先規模や週20時間以上かどうか、月額8.8万円以上かどうか、被扶養者基準を別々に見なければいけません。
たとえば、税金では配偶者の給与収入が123万円を超えると配偶者控除の対象から外れる可能性がありますが、すぐに社会保険で扶養から外れるとは限りません。逆に、税金ではまだ大きな影響が小さくても、社会保険では週20時間以上・月額8.8万円以上・対象企業という条件を満たせば勤務先の社会保険加入が必要になる場合があります。
2026年時点で特に注意したいのは、社会保険側では「106万円の壁はそのうち撤廃される」と報道されていても、いま現場で使うルールはまだ現行制度だという点です。厚労省は、賃金要件を公布から3年以内に撤廃し、企業規模要件を段階的に縮小・撤廃すると案内していますが、2026年3月時点では現行要件で判定する必要があります。中小企業から見ると、106万円の壁は「なくなる」のではなく、これまで遠かった壁が自社に近づいてくる改正です。
まず、従業員への説明資料で「税金の壁」と「社会保険の壁」を分けて書くことが重要です。税金の説明では、配偶者控除や配偶者特別控除、年末調整への影響を整理し、社会保険の説明では、106万円の壁、130万円の壁、週20時間要件、扶養判定を別建てで案内すると混乱を減らせます。
次に、2026年の実務では、税金側は令和7年分・令和8年分の改正動向を見ながら年末調整や社内FAQを更新し、社会保険側は現行ルールに基づいて加入判定や扶養確認を行う必要があります。特に税金側は令和7年12月の年末調整から実務変更が入り、令和8年度税制改正の大綱でも追加見直しの方針が示されているため、古い「103万円」のまま説明資料を放置しないことが大切です。
さらに、社会保険側では、被扶養者認定の運用も更新されています。日本年金機構は、2026年4月1日以降、労働条件通知書等に記載のある賃金から見込まれる年間収入が130万円未満であれば原則被扶養者に該当する取扱いを示しており、19歳以上23歳未満の被保険者配偶者以外は150万円未満の基準も案内しています。現場の人事担当者は、この新しい説明も押さえておく必要があります。
たとえば、従業員Aさんの配偶者がパートで働いており、年収見込みが125万円になりそうなケースを考えます。税金側では、国税庁が案内する令和7年分以後の基準に照らすと、配偶者控除のラインである給与収入123万円を超えるため、配偶者控除から外れる可能性があります。ただし、すぐに社会保険の扶養から外れると決まるわけではありません。社会保険は別制度だからです。
一方で、同じ配偶者が従業員60人規模の会社で週22時間働き、月額9万円の所定内賃金で学生でもないなら、社会保険側では短時間労働者の加入要件を満たす可能性があります。この場合は、税金の配偶者控除の話とは別に、勤務先の社会保険加入の可否を確認する必要があります。
逆に、従業員30人規模の会社で働いていて社会保険加入要件にまだ直接当たりにくいケースでも、被扶養者認定の130万円基準は残ります。つまり、経営者は「123万円まではOK」「130万円まではOK」と一括りにせず、税金の話か、社会保険の話かを先に確認する運用を作るべきです。106万円についても、現時点の判定と、将来の適用拡大による影響は分けて考える必要があります。
年収の壁を経営者向けにひとことで整理すると、税金の壁と社会保険の壁は別物です。税金側は、配偶者控除や給与所得控除、基礎控除、年末調整に影響する制度で、令和7年度税制改正ですでに見直しが進んでいます。社会保険側は、短時間労働者の加入要件や被扶養者認定の制度で、2026年時点では106万円・130万円の現行ルールがまだ生きています。
したがって、従業員から「いくらまで働けますか」と聞かれたときは、まず税金の話か、社会保険の話かを確認することが重要です。社内資料や面談でも、この切り分けを最初に行うだけで誤解はかなり減らせます。106万円の壁は「なくなる壁」ではなく、今後は中小企業にも近づいてくる壁として理解しておくと、説明がぶれにくくなります。
最終的な判定は個別の収入見込み、勤務時間、会社規模、家族構成で変わるため、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士等の専門家に確認してください。
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同じではありません。103万円や123万円は主に所得税や配偶者控除など税金の話で、106万円は主に短時間労働者の社会保険加入に関係する話です。制度も判定方法も別です。
そうではありません。123万円は税金側の目安で、社会保険の加入判定は週20時間以上、月額8.8万円以上、企業規模など別の条件で決まります。
主に社会保険の被扶養者認定の話です。年収130万円未満かどうかが、扶養に残れるかの重要な基準になります。税金側の配偶者控除とは別です。
いいえ。厚労省は将来の見直し方針を案内していますが、2026年3月時点では現行ルールとして残っています。実務ではまだ月額8.8万円以上などの要件で判定します。中小企業にとっては、「なくなった」というより、今後は自社にも関係してくる壁と理解する方が実務的です。
「税金の壁」と「社会保険の壁」は別、と最初に伝えるのが有効です。そのうえで、税金は年末調整や配偶者控除、社会保険は加入・扶養・保険料負担の話と切り分けると説明しやすくなります。
このコラムの著者 : 山口剛志
創業30年。私は、中小企業経営者の未来を守る企業側社労士です。 経営者目線・経営者感覚を徹底し、経営者に役に立つ提案と実行力をお届けします。 「会社を人事労務面から盤石にしたい」「ブラック企業の烙印を打破し、ホワイト企業へ変革したい」――そんな思いを持つ経営者を全力で支援します。 経営課題の解決はもちろん、永続的な成長と発展を実現するための道筋を共に切り拓きます。 貴社の将来を明るく照らすために、いつでもご相談ください!