expand_less

美容業・飲食業こそ企業型DCを|離職率対策と採用競争力を高める福利厚生設計

投稿日:2026年07月10日

更新日:2026年07月10日

確定拠出年金はこちら

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

美容室やサロン、飲食店を経営される中で、「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」「求人を出しても応募が集まらない」といった悩みを抱えていらっしゃる経営者の方は少なくないのではないでしょうか。美容業・飲食業は、シフト制勤務やアルバイト・パート比率の高さといった業態特性から、離職率の高さが経営課題として挙げられることが多い業界です。本記事では、こうした業界特有の事情を踏まえたうえで、企業型確定拠出年金(企業型DC)を福利厚生として導入する際の考え方と、対象者範囲を設計する際の実務ポイントを解説します。

結論:美容業・飲食業でも企業型DCは有効な福利厚生施策になり得る

企業型DCは、原則として実施企業に勤務するすべての厚生年金保険の被保険者を加入対象とする必要がありますが、規約に一定の合理的な資格(勤続年数等)を定めることで、パートタイム従業員等を対象外とする設計も可能とされています。この仕組みを活用すれば、正社員のみを対象とした導入も選択肢となり、シフト制・アルバイト比率が高い美容業・飲食業でも無理なく制度を設計できます。離職率対策や採用競争力の向上を目的とした福利厚生施策として、企業型DCは検討に値する制度です。

退職所得控除を最大活用する「2階建て戦略」とは|節税シミュレーション付き

なぜ美容業・飲食業で企業型DCが注目されるのか

美容業・飲食業では、若手スタッフの独立志向や、シフト制勤務による労働環境の負担感などから、離職率の高さが経営課題として挙げられることが多いと言われています(具体的な統計数値については本記事では扱いません)。人材の定着や採用競争力の強化は、多くの経営者にとって喫緊のテーマです。

こうした中、企業型DCは「掛金が事業主拠出であれば給与に上乗せする形で退職金・老後資産形成の支援ができる」「事業主拠出掛金は損金算入の対象となる」といった特徴を持つ制度であり、福利厚生の充実を通じた採用力・定着率の向上策として位置づけられます。

このセクションのポイント

  • 離職率対策は美容業・飲食業に共通する経営課題です。企業型DCは福利厚生の一つとして、採用時のアピール材料にも、既存スタッフの定着施策にもなり得ます。

企業型DCの対象者範囲はどう設計できるのか

企業型DCは、実施企業に勤務する厚生年金保険の被保険者を加入対象とすることが原則であり、役員のみを対象とした導入はできません。一方で、規約に一定の合理的な資格(勤続年数等)を定めることにより、パートタイム従業員等を加入対象から除外する設計は可能とされています。

この点は、シフト制勤務者やアルバイト比率が高い美容業・飲食業にとって重要な検討ポイントです。全従業員を一律に対象とするのではなく、正社員のみを対象とする、あるいは一定の勤続年数を満たした従業員のみを対象とするといった設計を、自社の雇用形態の実態に合わせて検討することができます。

このセクションのポイント

  • 「役員だけ」「特定の従業員だけ」を狙い撃ちした制度設計はできませんが、勤続年数等の合理的な基準による対象者の絞り込みは可能です。自社の雇用構成に合わせた制度設計を運営管理機関・顧問税理士とすり合わせることが重要です。
企業型DC 経営者・役員のための運用商品の選び方と基本戦略【AFP・DCプランナーが解説】

シフト制・アルバイト比率が高い業態での導入の考え方

美容業・飲食業では、正社員・契約社員・パート・アルバイトなど雇用形態が多様であることが一般的です。企業型DCの導入を検討する際は、まず自社にどのような雇用形態の従業員が何人在籍しているか、そのうち厚生年金保険の被保険者に該当する人数はどの程度かを整理することが出発点になります。

そのうえで、

  • 正社員(店長・マネージャークラスを含む)のみを対象とするのか
  • 一定の勤続年数(例:1年以上等)を満たした従業員まで対象を広げるのか
  • 将来的に対象範囲を拡大する余地を残しておくのか

といった設計方針を、経営方針や人材戦略と照らし合わせながら検討していく必要があります。対象者範囲は規約に明記する事項であるため、制度導入時にどの範囲まで加入対象とするかは、運営管理機関との協議の中で具体的に詰めていくことになります。

導入時に検討すべき実務上のポイント

企業型DCを導入する際、運営管理機関は必ず3以上35以下の運用商品を選択肢として選定し、加入者等に提示することが求められています。多店舗展開している美容室チェーンや飲食チェーンの場合、店舗ごとに従業員への説明機会をどう確保するか、投資教育をどのように行き渡らせるかも、実務上の重要な検討事項となります。

また、拠出限度額についても確認が必要です。企業型DCのみに加入する場合の拠出限度額は、2024年12月1日施行後の制度では月額55,000円(他制度の掛金相当額がある場合は控除)とされています。自社の退職金制度や他の企業年金制度の有無によって上限額が変わるため、制度設計の初期段階で確認しておくべき事項です。

このセクションのポイント

  • 多店舗・シフト制の職場では、説明会の開催方法や投資教育の浸透度が導入後の運用を左右します。運営管理機関の選定時に、こうした業態特性への対応力も確認しておくとよいでしょう。
退職所得控除を最大活用する「2階建て戦略」とは|節税シミュレーション付き

SMC税理士法人からのアドバイス

私たちSMC税理士法人は、中小企業の企業型DC導入を支援する立場から、美容業・飲食業のお客様からのご相談も多くいただいております。この業界特有の課題としてよくお聞きするのは、「全従業員を対象にすると管理が煩雑になりそう」「アルバイトが多く、対象者の線引きが難しい」といったお声です。

こうした場合、まずは正社員層のみを対象とした小さな範囲からスタートし、経営状況や採用戦略の変化に応じて対象範囲を見直していくというアプローチも一つの選択肢です。対象者範囲の設計は規約変更の手続きにも関わるため、導入前の設計段階で、運営管理機関だけでなく顧問税理士とも十分にすり合わせておくことをお勧めします。また、損金算入のタイミングや拠出限度額の考え方についても、税務面から助言できる専門家に相談しながら進めることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

まとめ

  1. 美容業・飲食業は離職率の高さが経営課題として挙げられることが多く、企業型DCは採用競争力向上・定着率向上を目的とした福利厚生施策として検討する価値があります。
  2. 企業型DCは原則として全従業員(厚生年金被保険者)を対象とする必要がありますが、勤続年数等の合理的な基準により、パートタイム従業員等を対象外とする設計も可能です。
  3. 役員のみを対象とした導入はできないため、対象者範囲の設計は制度の原則を踏まえたうえで検討する必要があります。
  4. シフト制・多店舗展開といった業態特性に応じて、説明会の実施方法や投資教育の浸透方法も事前に検討しておくべき実務ポイントです。
  5. 対象者範囲や拠出限度額の設計は、運営管理機関・顧問税理士に相談しながら進めることが望ましいです。
退職所得控除を最大活用する「2階建て戦略」とは|節税シミュレーション付き

出典・参考法令

SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 確定拠出年金導入 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

確定拠出年金はこちら

よくあるご質問

美容室やアルバイトが多い飲食店でも企業型DCは導入できますか?

導入可能です。企業型DCは原則として全従業員(厚生年金被保険者)を対象としますが、規約に勤続年数等の合理的な基準を定めることで、パートタイム従業員等を対象外とする設計もできます。

正社員だけを対象にして、アルバイトは対象外にすることはできますか?

一定の合理的な資格(勤続年数等)を規約に定めることで、パートタイム従業員等を加入対象から除外することは可能とされています。ただし具体的な設計は運営管理機関にご確認ください。

役員だけを対象にした企業型DCは作れますか?

できません。企業型DCは実施企業に勤務する厚生年金保険の被保険者を対象とすることが原則であり、役員のみを対象とした導入は認められていません。

離職率が高い業界でも企業型DCの効果はありますか?

離職率の高さが課題とされる業界であっても、退職金・資産形成支援を福利厚生として整備することは、採用時のアピールや定着率向上の一助になり得ると考えられます。ただし効果の程度は企業ごとの状況によって異なります。

多店舗展開している場合、導入の手間は大きいですか?

店舗ごとの説明会開催や投資教育の浸透など、単一店舗の企業に比べて調整事項は増える傾向にあります。運営管理機関の選定時にサポート体制を確認しておくことをお勧めします。

導入を検討する際、まず何から始めればよいですか?

まずは自社の雇用形態別の従業員構成を整理し、どの範囲を加入対象とするかの方針を固めることが出発点です。そのうえで運営管理機関・顧問税理士に相談しながら制度設計を進めることをお勧めします。

アバター画像

このコラムの著者 : 宍戸沙綾

株式会社SMC総研:株式会社日本企業型確定拠出年金センター 企業型DC導入支援グループ
AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)/DCプランナー2級 
前職で税理士法人グループの保険代理店に所属し、税務の観点から企業にとっての最適な金融商品の提案を実施。その経験を活かし、現在は企業型確定拠出年金の導入を多数支援。提携先の税理士事務所や大手保険会社との共催セミナーの主催や社内勉強会を実施。経営者の想いに寄り添い、「経営者と従業員の資産最大化」をサポートしている。

確定拠出年金