投稿日:2026年06月09日
更新日:2026年06月10日
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企業型確定拠出年金(企業型DC)は、掛金の拠出だけでなく「どの商品で運用するか」を加入者自身が選択する制度です。特に経営者や役員にとっては、退職後の資産を大きく左右する重要な意思決定です。AFP・DCプランナー2級の資格を持ち、企業型DC導入支援に携わる宍戸沙綾(株式会社SMC総研 / 株式会社日本企業型確定拠出年金センター)が、運用商品の選び方と実践的な戦略を解説します。
目次
企業型DCの運用商品選びは「複雑に考えるほど失敗する」というのが、導入支援の現場で感じる率直な印象です。基本は「①いつ受け取るか」「②どこまで値下がりに耐えられるか」の2点で決まります。
このセクションのポイント
・運用商品の選択は「いつ受け取るか」と「リスク許容度」の2軸で判断する
・複雑な分析より、シンプルな分散投資が長期的に有効
・放置(デフォルト商品のまま)は機会損失につながるケースが多い
企業型確定拠出年金と厚生年金の違いとは?関係性と仕組みをわかりやすく解説企業型DCで選べる商品は、大きく「元本確保型」と「元本変動型」の2種類に分類されます。それぞれの特徴を理解した上で、自分に合った組み合わせを選ぶことが重要です。
元本確保型とは、預け入れた掛金の元本が原則として保全される商品カテゴリーです。定期預金や元本確保型の保険商品がこれに該当します。
特徴:
・運用リターンは極めて低い(現状は年0.01〜0.1%程度)
・価格変動リスクがなく、安心感が高い
・インフレ率が上昇する局面では「実質的な目減り」が起きる
向いている方:受け取りまでの期間が3年以内、または強いリスク回避志向がある方。
元本変動型とは、主に投資信託(ファンド)で運用される商品カテゴリーです。価格は市場の動向によって変動しますが、長期運用では元本確保型を大幅に上回るリターンが期待できます。
主な種類:
【国内株式型】の特徴:日本企業の株式に投資 / リスク水準:中〜高
【外国株式型】の特徴:海外企業の株式に投資 / リスク水準:高
【国内債券型】の特徴:日本国債・社債に投資 / リスク水準:低〜中
【外国債券型】の特徴:海外債券に投資 / リスク水準:中(為替リスクあり)
【バランス型】の特徴:株式・債券・不動産等を組み合わせ / リスク水準:中
年齢別の基本的な考え方:
・40代まで:運用期間が20年以上あるため、株式型比率を高めた積極運用が選択肢になりやすい
・50代前半:残り10〜15年。株式型とバランス型を組み合わせたポートフォリオが一般的
・55歳以降:受取開始が近づくにつれ、元本確保型や債券型の比率を高めていく「グライドパス」の考え方を取り入れる
リスク許容度別の考え方:
・事業での資産形成が十分にある経営者は、DC口座では積極運用でもバランスを保ちやすい
・反対に、DCが退職後の主な資産源泉という場合は、値下がりへの許容度を慎重に評価する
このセクションのポイント
・元本確保型は安全だが、長期運用ではインフレ負けのリスクがある
・元本変動型(投資信託)は分散・長期の視点でリターンが期待できる
・年齢が上がるにつれ、リスク資産の比率を徐々に下げていく「グライドパス」が有効
企業型DCの導入支援を通じて、経営者・役員層に特有の「もったいない運用パターン」を数多く目にしてきました。代表的な3つを紹介します。
状況:企業型DC加入後、商品を何も選ばないまま放置。運営管理機関のデフォルト商品(元本確保型の定期預金)にすべての掛金が積み立てられている。
問題点:日本の物価上昇率が年1〜2%前後で推移する局面では、運用利率が0.01〜0.1%程度の定期預金は実質的に資産が目減りします。10年間・月3万円の掛金(360万円)が定期預金のまま推移した場合と、年率3%程度で運用した場合では、受取時に大きな差が生まれます(目安:同掛金・年率3%・10年で約419万円)。
対策:少なくとも積極運用が必要な年齢層では、掛金の一部をバランス型または株式・債券の組み合わせに振り向ける。
状況:株式市場が下落したタイミングで「もう怖い」と感じ、株式型から定期預金へ全額スイッチング(変更)。その後市場が回復しても恩恵を受けられない。
問題点:感情的なタイミングでのスイッチングは、多くの場合「高値で買って安値で売る」という逆張りの結果を招きます。DCは長期運用が前提のため、短期的な価格変動に反応しすぎないことが重要です。
対策:スイッチングは年齢・ライフプランに基づいた計画的なリバランス(比率の調整)として行う。市場の変動を理由とした緊急スイッチングは極力避ける。
状況:60歳の受取開始直前まで株式型100%で保有し続けていたところ、受取直前に市場が急落して大きく評価損が発生。
問題点:企業型DCの一時金受取は「退職所得」として税制上の優遇(退職所得控除・2分の1課税)が適用されますが(所得税法第30条・31条)、受取時の資産額が小さければ優遇効果も限定されます。受取直前の暴落リスクは大きな損失につながります。
対策:受取開始の5〜7年前をめどに、リスク資産の比率を計画的に引き下げ始める.
【積み上げ期】の時期:〜52歳 / 戦略の方向性:株式型中心(バランス型含む)で積極運用
【移行期】の時期:53〜56歳 / 戦略の方向性:バランス型・債券型の比率を高める
【保全期】の時期:57〜60歳 / 戦略の方向性:元本確保型・債券型中心に切り替え
※上記はあくまでも考え方の例示であり、個人の状況により最適な戦略は異なります。
このセクションのポイント
・全額定期預金は「安全」ではなく「インフレ負け」のリスクがある
・スイッチングは感情ではなく計画で行う
・受取5〜7年前からリスク資産の比率を下げる「出口戦略」が必須
企業型確定拠出年金と厚生年金の違いとは?関係性と仕組みをわかりやすく解説企業型DCは「拠出して終わり」ではありません。運用商品の選択・見直しが、最終的な受取額を大きく左右します。特に経営者・役員の方は多忙なため、一度設定した運用を長年放置しているケースが少なくありません。
AFP・DCプランナーとして、以下の3点を特にお伝えしたいです。
1. 年に1回はポートフォリオを確認する:掛金の累計が増えるほど、当初の配分比率からずれていきます。年に1度、自分の運用状況を確認する習慣をつけてください。
2. 受取方法(一時金 vs 年金)も視野に入れた運用設計を:一時金受取は退職所得控除の活用で税負担を抑えられます(所得税法第30条)。ただし、他の退職金との関係で控除額の重複に注意が必要です。運用商品の選択だけでなく、出口設計も含めてファイナンシャル・プランナーや税理士に相談することを推奨します。
3. 「よくわからないからバランス型1本」も実は合理的:商品選びに迷った場合、リスク分散の観点からバランス型ファンド1本にまとめるのは決して悪い選択ではありません。大切なのは「放置しない」ことです。
出典・参照
国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
厚生労働省「確定拠出年金の拠出限度額」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 確定拠出年金導入 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
はい、変更できます。運営管理機関のウェブサービスや所定の手続きを通じて、掛金の配分変更(今後の掛金の振り先を変える)およびスイッチング(保有残高の商品を入れ替える)が可能です。ただし、スイッチングには一定のタイムラグが生じる場合があります。
企業型DCの運用損失は、DC口座内で生じたものであるため、他の所得との損益通算はできません。また、DC口座内での運用益・損は課税対象外(非課税)となっており、損失が出ても税の還付を受ける仕組みはありません。運用損失の影響は、最終的な受取額の減少として現れます。
はい、選べます。企業型DCの加入対象となる役員・経営者(確定拠出年金法上の「厚生年金保険の被保険者」に該当する方)は、他の従業員と同様に加入者として運用商品を選択できます。規約の設計によっては役員のみ除外されているケースもありますので、自社の規約を確認してください。
原則として元本は保全されますが、「インフレによる実質的な目減り」は防げません。物価が上昇しても運用利率が低いままであれば、将来の受取額の購買力は低下します。「名目上の損はないが、実質的な価値は下がる」という点に注意が必要です。
企業型DCを一時金で受け取る場合、確定拠出年金法に規定する老齢給付金の一時金は「退職所得」として扱われます(所得税法第31条)。勤続年数(DC加入年数)が20年以下の場合は「40万円×加入年数」、20年超は「800万円+70万円×(加入年数-20年)」が控除額となります。退職所得の金額は「(受取額-控除額)×1/2」で計算され、税負担が大幅に軽減される仕組みです(所得税法第30条)。ただし、役員として勤続年数が5年以下の場合は1/2課税の適用除外(特定役員退職手当等)となる点に注意が必要です。