投稿日:2026年06月12日
更新日:2026年06月12日
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中小企業の経営者にとって、退職金制度の選択は従業員の採用・定着と法人の税負担の両方に直結する重要な経営判断です。「中退共・生命保険・企業型DC、どれが自社に合うのか」とお悩みの経営者様は多く、SMC税理士法人にも日々ご相談が寄せられています。本記事では、3つの退職金制度を税務・コスト・経営リスクの観点から徹底的に比較します。制度ごとの掛金上限・損金算入の仕組み・受取時の課税まで、数字を交えて解説しますので、自社に最適な制度選びの判断材料としてご活用ください。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 中退共 | 掛金は全額損金。月額5,000〜30,000円。管理が簡単だが経営者・役員は加入不可 |
| 生命保険(法人契約) | 損金算入割合は保険種類によって異なる。解約返戻金の活用が前提 |
| 企業型DC | 掛金は全額損金。2026年12月以降、拠出限度額が月額6.2万円に引き上げ |
| 経営者の老後資産形成 | 企業型DC(選択制含む)が最も有利な場合が多い |
| 税理士の実際の提案 | 従業員向けに中退共、経営者向けに企業型DCの「組み合わせ」が増加中 |
中小企業が利用できる退職金制度は、大きく分けて「中退共」「生命保険(法人契約)」「企業型DC(確定拠出年金)」の3つです。それぞれ仕組みが異なり、誰に向けた制度かも変わります。
中退共は、中小企業退職金共済法に基づき、国が運営する公的な退職金制度です(昭和34年創設)。独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営しており、令和6年度時点で約37万事業所・357万人以上の従業員が加入しています。
仕組みの特徴
加入できる従業員・加入できない人
この点が中退共最大の制限です。経営者自身の老後資産形成には使えません。
国の助成制度
新規加入時には、掛金月額の2分の1(1人あたり上限5,000円)を加入後4か月目から1年間、国が助成します。また、掛金を増額する場合も増額分の3分の1を1年間助成する制度があります。
法人契約の生命保険を活用して退職金を積み立てる方法です。保険料の一部または全部が損金算入でき、従業員退職時に解約して退職金の原資に充てます。
主な保険の種類と損金算入
2019年の国税庁改正通達以降の扱い
2019年以降、節税目的の保険商品への課税強化が行われ、解約返戻率が高い保険の損金算入割合は大幅に制限されました。損金算入できる額が減り、「保険を使えば節税できる」という時代は終わっています。税理士への相談なしに生命保険を契約することは避けましょう。
企業型DC(企業型確定拠出年金)は、確定拠出年金法に基づく私的年金制度です。事業主が毎月拠出する掛金を従業員が自分で運用し、老後に受け取る制度です。
仕組みの特徴
経営者・役員も加入可能
企業型DCの最大の特徴は、経営者・役員も加入できることです。中退共と異なり、会社の代表取締役でも加入でき、自身の老後資産形成に活用できます。
2025年改正(2026年4月・12月施行)の最新動向
2025年に確定拠出年金法等が改正されました。主な変更点は以下のとおりです。
このセクションのポイント
- 中退共は従業員向けで経営者は加入不可。生命保険は2019年改正で節税効果が大幅縮小。企業型DCは経営者も対象で、2026年に拠出枠が拡充される。
税務処理の仕組みが異なると、同じ金額を拠出しても手元に残るお金が変わります。制度ごとに損金算入の扱いを正確に理解することが重要です。
| 項目 | 中退共 | 生命保険(養老・逓増定期等) | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 損金算入割合 | 全額(100%) | 商品・条件による(0〜100%) | 全額(100%) |
| 損金算入の根拠 | 中退共法・法人税法第9条 | 法人税基本通達9-3-4〜9-3-9 | 確定拠出年金法・法人税法 |
| 経営者自身への適用 | 不可 | 可(役員保険として) | 可 |
| 資産計上の必要性 | なし | あり(前払保険料等) | なし |
中退共の損金算入:シンプルかつ確実
中退共の掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として全額非課税となります(中退共制度公式サイト)。資産計上の必要もなく、拠出した期に全額が税務上の費用として処理されます。
生命保険の損金算入:条件が複雑
生命保険の損金算入は、保険の種類・解約返戻率・保険期間によって大きく異なります。例えば、養老保険のハーフタックスプランでは保険料の50%のみ損金算入可能です。また、解約返戻金を受け取ったときには益金算入されるため、退職時の退職金支払いと損益を相殺して節税効果を出す設計が必要です。設計を誤ると期待した節税効果が得られません。
企業型DCの損金算入:全額かつ明瞭
企業型DCの事業主掛金は全額損金算入です。受け取り時も従業員側で税制優遇(退職所得控除・公的年金等控除)が適用されるため、「拠出時も受取時も有利」という二重の税制優遇があります。
| 項目 | 中退共 | 生命保険 | 企業型DC(現行) | 企業型DC(2026年12月〜) |
|---|---|---|---|---|
| 上限(月額) | 30,000円 | 上限なし(損金算入に制限あり) | 55,000円(他制度なし) | 62,000円(他制度なし) |
| 下限(月額) | 5,000円 | 保険商品による | 1,000円(規約による) | 同左 |
| 年額上限目安 | 36万円 | 制限なし(損金算入額に上限) | 66万円 | 74.4万円 |
| 経営者・役員への適用 | 不可 | 可 | 可 | 可 |
注意:企業型DCの掛金上限55,000円は他の企業年金(DB等)がない場合の金額です。確定給付型企業年金(DB)等が併存する場合は上限が変わります(月額27,500円等)。2026年12月の改正後は共通拠出限度額が月額6.2万円となります。
| 項目 | 中退共 | 生命保険 | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 積立中の運用益 | 運用は中退共が行う(付加退職金として還元) | 保険会社の運用 | 非課税(特別法人税は凍結中) |
| 受取方式 | 一時金(一括)または分割払い(60歳以上の場合) | 解約返戻金を退職金として支払い | 一時金(退職所得控除)または年金(公的年金等控除) |
| 受取時の従業員への課税 | 退職所得として課税(退職所得控除が適用) | 退職所得として課税 | 退職所得控除(一時金)または公的年金等控除(年金) |
| 事業主への返戻金 | なし(退職金は直接従業員へ) | 解約返戻金として法人に入金 | なし(個人別管理資産として従業員に帰属) |
退職所得控除の効果
退職所得の計算は「(退職金額 – 退職所得控除額)× 1/2」です。勤続20年以下の場合は勤続年数×40万円、20年超の場合は800万円+勤続年数(20年超の部分)×70万円が控除されます。例えば勤続30年で退職金1,500万円の場合:退職所得控除は800万円+10年×70万円=1,500万円となり、課税所得はゼロになります。
従業員3人以下でも企業型DCは導入できる?最小規模の条件と注意点このセクションのポイント
- 損金算入100%の制度は「中退共」と「企業型DC」のみ。生命保険は種類・条件で大きく変わる。2026年12月以降、企業型DCの拠出上限が月額6.2万円に引き上げられ、さらに有利になる。
税務上の有利・不利だけでなく、経営上の使い勝手・リスクも重要な判断基準です。
| 項目 | 中退共 | 生命保険 | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 掛金の増額 | いつでも可能(書類提出のみ) | 保険契約の変更が必要 | 規約変更が必要(年1回等、規約による) |
| 掛金の減額 | 原則困難(従業員同意または厚生労働大臣の認定が必要) | 解約・払済保険への変更等 | 規約変更が必要 |
| 制度の廃止・解約 | 事業主からは解約不可(従業員への給付は継続) | 解約返戻金を受け取れる(課税あり) | 規約廃止により他の年金制度へ移換 |
| 未加入従業員の除外 | 加入は任意(全員加入の義務なし) | 任意 | 規約に基づき全員加入が原則 |
中退共は解約返戻金がない
中退共は、事業主が解約した場合でも解約返戻金は事業主には戻りません。掛金は従業員の退職金として保全されており、事業主が経営不振になっても差し押さえの対象になりません。これは従業員保護の観点では優れていますが、経営が厳しくなっても「積み立てたお金を取り戻せない」という経営上のデメリットにもなります。
生命保険は解約のタイミングが肝心
生命保険は解約返戻金が法人に戻るため、資金繰りに活用できる可能性があります。ただし、解約返戻金を受け取ると益金算入されるため、同時期に退職金を支払って損益を相殺する設計が必要です。解約のタイミングを誤ると、大きな税負担が生じます。
企業型DCは従業員へのポータビリティが高い
企業型DCの個人別管理資産は従業員に帰属しており、転職時はiDeCoや転職先の企業型DCへ持ち運び(ポータビリティ)が可能です。これは転職が一般化した現代において、従業員にとって大きなメリットです。一方で、一度拠出した掛金は事業主には戻らず、原則60歳まで引き出せません。
| 項目 | 中退共 | 生命保険 | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 従業員への説明 | 加入時に退職金共済手帳の交付 | 特段の義務なし | 投資教育の実施が法令上の義務 |
| 運用の選択 | 事業主・従業員ともに不要 | 不要 | 従業員が自分で投資商品を選ぶ |
| 事務負担 | 非常に少ない | 中程度(保険料管理・解約手続き) | 初期設定は多いが、運用後は少ない |
企業型DCは導入時に規約の作成・承認が必要で、従業員への継続的な投資教育(継続教育)が義務づけられています。ただし、近年は運営管理機関がWebセミナーや教育ツールを提供しており、事業主の実質的な負担は大幅に軽減されています。
| 項目 | 中退共 | 生命保険(法人契約) | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 法人倒産時の従業員への影響 | 退職金は中退共が直接支払うため影響なし | 法人の資産として差し押さえリスクあり | 個人別管理資産として差し押さえ対象外 |
| 法人の差し押さえ対象 | ならない | なる(解約返戻金は法人資産) | ならない |
| 従業員保護の安全性 | 高い | 低い(法人破綻時にリスク) | 高い |
**倒産リスクへの対応という観点では、中退共と企業型DCが優れています。**生命保険の解約返戻金は法人の資産であるため、経営危機時に金融機関から差し押さえられる可能性があります。従業員のためにコツコツ積み立てた退職金の原資が、倒産時に従業員に渡らないという最悪のケースを避けるためにも、制度選びは重要です。
このセクションのポイント
- 中退共・企業型DCは従業員保護の安全性が高く、倒産時も資産が守られる。生命保険は解約返戻金が法人資産のため、倒産リスクがある。企業型DCは従業員にとってポータビリティが高く、採用競争力の向上にも寄与する。
「何が一番お得か」は、会社の規模・経営者の年齢・従業員構成によって異なります。典型的なケースごとに整理します。
【従業員3〜10名の小規模企業】:中退共がまず第一選択
試算例:従業員5名、全員掛金月額10,000円の場合
【従業員10〜30名の中規模企業】:企業型DCの本格導入を検討
【従業員30名以上の企業】:企業型DCが中心的選択肢
中退共は経営者・役員が加入できないため、経営者自身の退職金を準備するための選択肢は以下となります。
| 制度 | 内容 | 掛金上限 | 損金・経費算入 |
|---|---|---|---|
| 企業型DC | 会社で設立、経営者も加入 | 月55,000円(現行)→月62,000円(2026年12月〜) | 全額損金 |
| iDeCo(個人型DC) | 個人が加入 | 会社員(企業型DCなし)は月23,000円等 | 全額所得控除 |
| 小規模企業共済 | 中小企業経営者向け共済 | 月7万円 | 全額所得控除 |
| 役員退職金(内部積立) | 退職時に役員退職金として支給 | 損金算入には適正額の要件あり | 退職時に損金算入 |
経営者の老後資産形成においては、企業型DCと小規模企業共済の組み合わせが最も税制優遇の幅が広くなるケースが多いです。SMC税理士法人では、経営者の年齢・会社の規模・他の年金制度の有無を考慮したうえで、最適な組み合わせをご提案しています。
SMC税理士法人がご支援する中小企業で実際に多い提案パターンをご紹介します。
パターン1:従業員向けに中退共 + 経営者向けに小規模企業共済
パターン2:全員(従業員・役員含む)で企業型DC
パターン3:中退共(従業員) + 企業型DC(役員・経営者)
企業型確定拠出年金の定期預金は損?メリットと隠れたデメリットこのセクションのポイント
- 従業員向けには中退共がシンプルでコストが低い。経営者・役員の老後資産形成は企業型DCまたは小規模企業共済が有効。2026年以降の改正でさらに企業型DCの活用余地が広がる。
退職金制度は「どれが一番得か」という単純な比較ではなく、会社の規模・従業員構成・経営者の年齢・他の年金制度の有無・資金繰りの状況など、複数の要素を総合的に判断する必要があります。
SMC税理士法人では、顧問税理士として税務申告・記帳代行をご支援しながら、退職金制度の設計・企業型DC導入支援(株式会社日本企業型確定拠出年金センターとの連携)も行っています。
「まず話を聞きたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
中小企業が活用できる退職金制度は「中退共」「生命保険」「企業型DC」の3つが中心ですが、それぞれ対象者・税務上の扱い・使い勝手が大きく異なります。
| 制度 | 最も適したケース |
|---|---|
| 中退共 | 従業員向け退職金を手軽に始めたい小規模企業 |
| 生命保険(法人契約) | 事業保障と退職金準備を兼ねたい場合(税理士との綿密な設計が前提) |
| 企業型DC | 経営者・役員も含めた全員の老後資産形成と、採用・定着力の向上を目指す企業 |
2026年以降の制度改正により、企業型DCはさらに使いやすく・有利になります。今のうちから制度の仕組みを理解し、自社に最適な退職金設計を検討することが重要です。
退職金制度の選択・設計でお悩みの経営者様は、ぜひSMC税理士法人にご相談ください。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 確定拠出年金導入 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
同一の従業員が中退共と企業型DCに同時加入することは原則できません。ただし、「役員・経営者は企業型DC」「一般従業員は中退共」のように対象者を分けて、それぞれ別の制度を設ける形は可能です。制度設計は個別の状況によって異なりますので、税理士にご相談ください。
中退共の掛金を減額するには、原則として従業員本人の同意または厚生労働大臣の認定が必要です。また、事業主が解約しても解約返戻金は事業主には戻りません。経営の見通しが立つ範囲で無理のない掛金額から始めることをお勧めします。
企業型DCの掛金を変更するには規約変更の手続きが必要で、変更頻度にも制限があります(規約による)。業績連動型の掛金設定も可能ですが、設計の際は運営管理機関および税理士との相談が不可欠です。
2019年の国税庁改正通達以降、節税効果の高かった保険商品の損金算入割合が制限されました。現在も一定の損金算入は可能ですが、「節税目的で保険に加入する」という戦略は以前ほど有効ではありません。加入の際は必ず税理士と数字を確認してください。
2025年に成立した年金改正法(「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」)により、2026年12月1日からiDeCo・企業型DCの共通拠出限度額が月額6.2万円(他の企業年金制度なしの場合)に引き上げられます。現行(月額5.5万円)より月額7,000円、年間で8.4万円分の拠出余地が増えます。
新規加入助成(掛金の半額、上限5,000円/人)は、適格退職年金から移行した事業主や社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している事業主など、一部の事業主には適用されない場合があります。また、同居の親族のみを雇用する事業主も対象外です。中退共の公式サイトや担当窓口でご確認ください。
主な手続きは以下のとおりです。①運営管理機関の選定、②企業型年金規約の作成、③厚生労働大臣の承認(規約の承認)、④加入者への投資教育の実施、⑤掛金の拠出開始。規約の作成から承認まで、通常2〜4か月程度かかります。SMC総研・日本企業型確定拠出年金センターでは、この一連の手続きをサポートしています。
使えます。小規模企業共済(掛金は全額所得控除)と企業型DC(掛金は全額損金)は、それぞれ別の制度として併用が可能です。経営者の老後資産形成において、この組み合わせは非常に有効です。ただし、企業型DCへの加入は会社として制度を設ける必要があります(個人では加入できません)。