投稿日:2026年03月30日
更新日:2026年05月19日
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60歳の定年を迎えるにあたり、企業型確定拠出年金(企業型DC・401k)を今後どうするかは、老後資金計画における重要な選択です。
法改正により60歳以降も運用を継続しやすくなった現在、すぐに資産を受け取るべきか、それとも運用を続けるべきか悩む人は少なくありません。
本記事では、60歳以降の企業型DCの選択肢や、税制面で有利な受け取り方法について、制度の基本から具体的な戦略までを解説します。
目次
60歳以降の企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産の取り扱いには、主に3つの選択肢があります。
1つ目は、60歳以降の好きなタイミングで老齢給付金として「受け取る」方法です。
受け取り方には、全額を一度に受け取る「一時金」、分割で受け取る「年金」、そしてその2つを組み合わせた「併用」があります。
2つ目は、掛金の拠出はせずに、これまで積み立てた資産の「運用のみを継続する」方法です。
そして3つ目は、60歳以降も厚生年金に加入して働く場合に、企業の規約が許せば「掛金を拠出しながら運用を継続する」方法です。
自身のライフプランや資産状況に合わせて最適な選択肢を検討する必要があります。
2022年に行われた法改正により、確定拠出年金の制度は、高齢期における資産形成の柔軟性を高める方向へ大きく変わりました。
特に、これまで60代で迎えることが多かった受給開始や加入資格の終了時期が延長され、何歳まで運用や拠出を続けられるかの選択肢が広がっています。
これにより、個々のライフプランや働き方に合わせて、より長期的な視点で資産を管理できるようになりました。
60歳以降の最適なプランを考える上で、これらの新しいルールを正しく理解しておくことが不可欠です。
法改正により、企業型確定拠出年金の受給開始年齢の上限が、従来の70歳から75歳に引き上げられました。
これにより、原則として60歳から75歳までの期間内であれば、自分の好きなタイミングで老齢給付金の受け取りを開始できます。
この柔軟性は大きなメリットであり、例えば60歳時点の市場が下落している場合に、相場の回復を待ってから受け取るといった判断が可能です。
また、公的年金の繰下げ受給を検討している場合、それまでの生活費を補うためにDCの受給時期を調整するなど、個々のライフプランに合わせた出口戦略を立てやすくなりました。
老齢給付金の受給は75歳になるまでに行う必要があります。
もし、75歳の誕生日の前日までに受給手続きを行わなかった場合、それまでに積み立てた資産は全額が強制的に現金化され、一時金として自動的に支払われることになります。
これを「自動換価」と呼びます。
この場合、自分の意図しない市場価格で資産が売却されてしまったり、税制上の最適な受け取り方を検討する機会を失ったりする可能性があります。
そのため、運用を継続する場合でも、75歳という最終期限を念頭に置き、それまでに自身で計画的に受給手続きを完了させることが重要です。
60歳以降も会社に勤務し、厚生年金保険の被保険者である場合は、引き続き企業型DCの加入者として掛金を拠出できます。
2022年の法改正で、企業型DCの加入者資格の上限が65歳未満から70歳未満へと引き上げられました。
これにより、以前よりも長く掛金を拠出しながら非課税の恩恵を受けて資産形成を続けることが可能になっています。
ただし、会社の退職金規程や年金規約によっては、加入者資格が60歳や65歳までと定められている場合もあるため、必ず自身の勤務先の規約を確認する必要があります。
60歳で会社を退職し、掛金の拠出(加入)ができなくなった後も、すぐに資産を受け取る必要はありません。
「運用指図者」として、これまで積み立てた資産を75歳まで非課税で運用し続けることが可能です。
運用指図者になると、新たに掛金を追加することはできませんが、現在保有している金融商品の配分を変更する「スイッチング(預け替え)」は引き続き行えます。
市場の動向を見ながら資産配分を見直したり、相場の良いタイミングでの受給を待ったりするなど、柔軟な資産管理ができるのが特徴です。
運用指図により、非課税のメリットを活かしながら資産の成長を目指せます。
定年後すぐに老齢給付金を受け取らず、運用を継続する選択には、いくつかの大きなメリットが存在します。
特に、税制上の優遇措置を活かし続けられる点や、資産の受け取りタイミングを柔軟に決められる点は、老後の資産計画に大きな影響を与えます。
ここでは、60歳以降も企業型DCの運用を続けることで得られる具体的な3つのメリットを解説し、なぜ運用継続が有効な選択肢となり得るのかを明らかにします。
確定拠出年金の最大のメリットの一つが、運用期間中に得た利益がすべて非課税になる点です。
通常、金融商品の運用益には20.315%の税金がかかりますが、DC口座内ではこの税金がかからないため、効率的に資産を増やせます。
この非課税メリットは60歳以降も運用を続ける限り、最長で75歳まで享受することが可能です。
特に、すぐに資金を使う予定がない場合は、この税制優遇を最大限に活用し、複利効果によって老後資金をさらに成長させられる可能性があります。
運用を継続する大きなメリットは、受給タイミングを自分でコントロールできる点にあります。
例えば、60歳時点の市場が下落局面にある場合、慌てて資産を現金化すると、元本割れの状態で損失を確定させてしまうことになりかねません。
しかし、運用を続けていれば、市場が回復するのを待ってから受け取るという選択ができます。
このように、相場の動向を見極め、自身の資産価値がより高まった有利なタイミングで現金化することが可能となり、より多くの資産を確保できるチャンスが生まれます。
企業型DCを一時金で受け取る際には、税制上非常に有利な「退職所得控除」が適用されます。
もし、勤務先の退職一時金と同じ年にDCも一時金で受け取ると、両方の金額を合算して控除額を計算するため、控除枠を超えて課税される可能性があります。
そこで、DCの受け取りを翌年以降にずらすことで、退職所得控除の枠を別々に利用できる場合があります。
これにより、それぞれの控除枠を最大限に活用し、結果として手元に残る金額を増やせる可能性があります。
ただし、勤続年数の計算など複雑なルールがあるため注意が必要です。
60歳以降も企業型DCの運用を続けることには多くのメリットがある一方で、無視できないデメリットや注意点も存在します。
特に、在職中とは異なり、これまで会社が負担していたコストが自己負担になる可能性や、運用に伴う本質的なリスクについては正しく理解しておく必要があります。
メリットだけに目を向けるのではなく、これらの注意点を踏まえた上で、運用を継続するかどうかを慎重に判断することが大切です。
在職中は、企業型DCの口座管理手数料の多くを会社が負担してくれています。
しかし、会社を退職して運用指図者になると、この手数料が全額自己負担になるのが一般的です。
手数料の金額は運営管理機関によって異なりますが、年間で数千円から1万円程度かかることもあります。
運用によって得られる利益がこの手数料を下回ってしまうと、資産は実質的に目減りしていくことになります。
したがって、運用を継続する際には、年間の手数料コストがどのくらいかかるのかを事前に必ず確認し、それを上回る運用成果が期待できるかを検討する必要があります。
運用を継続するということは、市場の価格変動リスクを引き続き負うことを意味します。
投資信託などの価格変動型商品で運用を続ける場合、市場が下落すれば資産価値も減少し、積み立てた元本を下回る「元本割れ」の可能性があります。
特に、老後資金を使い始める時期が近い60代以降において、資産が大きく目減りする事態は避けたいところです。
運用を続けるのであれば、自身のリスク許容度を再評価し、元本確保型商品の比率を高めるなど、より安定性を重視した資産配分に見直すことも検討すべきです。
勤務先を退職して企業型DCの加入資格を失った場合、原則として6ヶ月以内にご自身の資産をiDeCo(個人型確定拠出年金)の口座へ移す「移換」手続きが必要です。
この手続きを怠ると、資産は国民年金基金連合会に「自動移換」されてしまいます。
自動移換されると、資産は現金化され運用がストップする上に、管理手数料だけが差し引かれ続けるため、資産が目減りする一方になります。
ただし、会社の規約によっては退職後もその企業型DCの枠内で運用を続けられる場合もあるため、まずは退職後の取り扱いについて会社の担当部署に確認することが重要です。
企業型確定拠出年金の資産は、受け取り方によってかかる税金の種類や計算方法が大きく異なります。
主な受け取り方には「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」の3パターンがあり、それぞれに異なる税制優遇措置が用意されています。
自身の退職金の額や公的年金の受給見込み額、ライフプランなどを総合的に考慮し、どの方法が最も手取り額を多くできるか、比較検討することが賢い出口戦略の鍵となります。
資産を一度にまとめて受け取る「一時金」形式を選択した場合、その所得は「退職所得」として扱われます。
退職所得には勤続年数に応じて計算される「退職所得控除」という非常に手厚い非課税枠が適用されます。
この控除額が大きいため、課税対象となる所得を大幅に圧縮でき、多くの場合で税負担が軽くなるか、あるいは非課税になることもあります。
例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は1,500万円にもなります。
他の退職金が少ない、あるいは無い場合や、税負担を最小限に抑えたい人にとって、一時金での受け取りは非常に有利な選択肢です。
資産を5年や10年といった期間に分割して受け取る「年金」形式を選択した場合、その所得は「雑所得」として扱われ、公的年金と同じ「公的年金等控除」が適用されます。
この方法は、退職所得控除の枠が小さい人や、一度に大きな資金を受け取るよりも定期的な収入を確保したい人に適しています。
毎年の受取額を抑えることで、適用される所得税率を低くできる可能性があります。
ただし、公前年金やその他の所得と合算して税額が計算されるため、合計所得によっては税負担や固定費が増える場合がある点には注意が必要です。
一部の資産を一時金で受け取り、残りを年金で受け取る「併用」という方法もあります。
これは、退職所得控除と公的年金等控除の、両方の税制優遇を最大限に活用できる可能性がある受け取り方です。
例えば、退職所得控除の非課税枠に収まる金額だけを一時金で受け取り、控除枠を超えた分を年金として分割で受け取ることで、全体の税負担を最適化できる場合があります。
ただし、この併用受給が可能かどうかは金融機関の制度によりますし、税金の計算が複雑になるため、利用を検討する際は専門家や金融機関に相談することが推奨されます。
60歳以降の資産運用は、現役時代のように積極的にリスクを取って資産を増やす「攻めの運用」から、築き上げた資産をインフレなどから「守りながら緩やかに増やす運用」へとシフトしていく時期です。
これから迎えるセカンドライフで、いつ、どのようにお金を使っていきたいかというライフプランを具体的に描き、それに合わせて商品のリスクとリターンのバランスを見直すことが、後悔しないための重要なポイントになります。
老後資金を使い始める時期が近づく60代以降は、大きな価格変動リスクを避けることが運用戦略の基本となります。
これまでに築いた大切な資産を守ることを最優先に考えるなら、ポートフォリオにおける「元本確保型」商品の比率を高めるのが有効です。
元本確保型商品には、定期預金や保険商品などがあり、大きなリターンは期待できませんが、満期まで保有すれば元本が保証される安心感があります。
市場が急落した場合でも資産の大幅な減少を防げるため、安定性を重視する運用に切り替える上で中心的な役割を果たします。
元本確保型商品だけで運用していると、物価が上昇するインフレによって、お金の実質的な価値が目減りしてしまうリスクがあります。
例えば、年1%の定期預金で運用していても、物価が2%上昇すれば、実質的には資産価値は下がっていることになります。
こうしたインフレリスクに備えるためには、資産の一部を投資信託で運用することも有効な戦略です。
国内外の株式や債券に分散投資されたバランスファンドなどを活用すれば、リスクを一定程度に抑えながら、インフレ率を上回るリターンを期待でき、資産価値の維持・向上を目指せます。
60歳以降の最適な資産配分(ポートフォリオ)に、万人に当てはまる唯一の正解はありません。
企業型DC以外の預貯金や有価証券がどのくらいあるか、公的年金はいつからいくらもらえるのかといった全体の資産状況を把握することが第一歩です。
その上で、今後10年、20年のライフプランを考え、どの程度の価格変動リスクなら精神的に受け入れられるか(リスク許容度)を冷静に判断します。
これらの要素を総合的に勘案し、元本確保型と投資信託の比率を調整するなど、自分自身の状況に合わせたポートフォリオを再構築することが何よりも重要です。
60歳以降の企業型確定拠出年金の取り扱いには、「全額または一部を受け取る」「運用のみを継続する」「働きながら掛金を拠出し運用を続ける」といった複数の選択肢が存在します。
2022年の制度改正により、受給開始時期の上限が75歳に延長され、より柔軟な資産管理が可能となりました。
運用継続は非課税メリットを享受できる一方、手数料の自己負担や元本割れのリスクを伴います。
受け取り方法も一時金、年金、併用で税制優遇が異なるため、自身の資産状況やライフプランを総合的に考慮し、最適な出口戦略を立てることが求められます。
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最大のメリットは、最長75歳まで「非課税」で運用を継続できる点です。すぐに使う予定がない資金なら、非課税メリットを活かして資産をさらに増やせる可能性があります。
「受け取り時期を遅らせる」のが有効な戦略です。75歳までの好きなタイミングで引き出せるため、相場が回復するまで運用を続け、資産価値が戻ったタイミングで現金化することができます。
はい、原則自己負担になります。 在職中は会社が負担してくれていた口座管理手数料(年数千円〜1万円程度)が資産から差し引かれるようになるため、コストを上回る運用成果が出せそうか検討が必要です。
一般的には「一時金」です。「退職所得控除」という非常に大きな非課税枠が使えるため、他の退職金との合算で枠を超えない限り、税負担を最も低く抑えられるケースが多いです。
はい、「守りの運用」へのシフトが推奨されます。現役時代よりリスク許容度が下がるため、元本確保型商品の比率を高めて資産の目減りを防ぎつつ、一部を投資信託に充ててインフレ対策を行うのが合理的です。