投稿日:2026年05月14日
更新日:2026年05月20日
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企業型確定拠出年金(企業型DC)は、役員報酬の手取りを最大化しながら、将来の退職金も準備できる有効な制度です。
役員報酬の一部を掛金とすることで、役員個人は固定費や税金の負担を軽減でき、会社側も掛金を全額損金として計上できます。
ただし、導入にあたっては役員報酬の変更が「定期同額給与」のルールに抵触しないよう、適切な手続きを踏むことが不可欠です。
本記事では、制度のメリットから税務上の注意点、導入手順までを詳しく解説します。
目次
役員が企業型DCを活用すべき最大の理由は、会社の経費(損金)を用いて、役員個人の私的資産を非課税で形成できる点にあります。
役員報酬として受け取ると課税対象となる資金を、非課税の掛金として老後資金に回せるため、効率的な資産形成が可能です。
また、従業員の福利厚生制度としても導入できるため、役員自身のメリットを追求しながら、同時に従業員の満足度向上や人材定着にも貢献できるという、経営者にとって一石二鳥の制度といえます。
役員報酬の一部を企業型DCの掛金に振り替える「選択制確定拠出年金」という仕組みを活用すると、会社と役員個人の双方に大きな節税メリットが生まれます。
役員は、掛金分が給与と見なされなくなるため、所得税・住民税だけでなく固定費の負担も軽減されます。
一方で会社も、役員や従業員のために拠出した掛金を全額福利厚生費として損金に算入できるため、法人税の負担を抑えることが可能です。
双方にとって経済的な恩恵が大きいのが特徴です。
役員が企業型DCに加入し、役員報酬の一部を掛金として拠出すると、その掛金相当額は給与所得とは見なされません。
その結果、課税対象となる所得額が減少し、所得税や住民税の負担が軽減されます。
さらに、固定費(健康保険料・厚生年金保険料)の算定基礎となる標準報酬月額も、掛金を差し引いた後の金額で決定されるため、固定費の個人負担額も削減される効果があります。
これにより、可処分所得、つまり手取り額を実質的に増やすことが可能になります。
会社が役員や従業員のために拠出する企業型DCの掛金は、全額を福利厚生費として経費計上できます。
会社の経費が増えることで課税対象となる利益が圧縮されるため、結果的に法人税の負担を軽減させる効果があります。
役員の退職金準備を会社の損金で進められる点は、経営者にとって大きなメリットです。
また、従業員の掛金についても同様に損金算入できるため、福利厚生を充実させながら、会社の税負担を最適化する手段として非常に有効です。
例えば、役員報酬が1,000万円(月額約83万円)の役員が、上限である月額5.5万円(年間66万円)を企業型DCの掛金として拠出した場合を考えます。
この年間66万円は課税所得の対象外となり、固定費の算定基礎からも除かれます。
所得税・住民税率を33%、固定費率を15%(個人負担分)と仮定すると、税金で約21.8万円、固定費で約9.9万円、合計で年間約31.7万円もの負担軽減が見込めます。
会社側も、同額の固定費負担(約9.9万円)が軽減され、掛金66万円は損金算入できるため、法人税も節約できます。
企業型DCを導入するために役員報酬を減額する場合、税務上の「定期同額給与」のルールに抵触しないかという点が最も重要なポイントです。
定期同額給与とは、役員への給与が事業年度を通じて毎月同額でなければ、損金として認められないという原則です。
安易に期中で役員報酬を変更し掛金を拠出すると、その報酬が損金不算入と判断されるリスクがあります。
このリスクを回避し、制度のメリットを享受するためには、適切な時期に正規の手続きを踏むことが不可欠です。
企業型DC導入に伴う役員報酬の減額が税務上問題視されないためには、その変更が恣意的な利益調整ではないことを明確にする必要があります。
最も安全な方法は、事業年度の改定時期に合わせて役員報酬の金額そのものを変更し、その改定された報酬の中から掛金を拠出する形を取ることです。
具体的には、事業年度開始前に企業型DCの制度導入を決定し、株主総会で新たな役員報酬額とDCの掛金額を正式に決議します。
この手続きにより、報酬変更の正当性が担保され、定期同額給与のルールを遵守することができます。
役員報酬の金額を変更できるタイミングは、法人税法上、原則として事業年度の開始日から3ヶ月以内と定められています。
したがって、企業型DCの導入に伴い役員報酬額を見直す場合も、この期間内に定時株主総会などを開催し、報酬改定の決議を行う必要があります。
決議した内容は、必ず議事録として書面に残しておかなければなりません。
この手続きを遵守することで、役員報酬の減額と掛金の設定が税務上正式に認められ、定期同額給与の要件を満たすことができます。
計画的なスケジュール管理が重要です。
企業型DCの掛金はいくらでも設定できるわけではなく、法律で上限額が定められています。
この上限額は、会社が他に導入している企業年金制度の有無によって変動します。
役員自身の節税効果や老後資金の準備計画を考慮し、法令の範囲内で最適な掛金額を決定することが重要です。
制度のメリットを最大限に活かすためには、自社の状況における上限額を正確に把握し、計画的に掛金額を設定する必要があります。
掛金の上限額は、2026年12月から従来の月額5.5万円から**月額6.2万円(年間74.4万円)**へと引き上げられます。
2026年11月までは月額5.5万円(年間66万円)が上限ですが、12月以降は非課税で積み立てられる枠が年間でさらに8.4万円拡大することになります。
この上限額は役員だけでなく、同じ条件の従業員にも共通して適用されます。高額な所得税率が適用される多くの役員にとって、この増額分を最大限に活用することは、節税効果を最大化し、効率的に老後資金(役員退職金)を準備するための極めて有効な戦略となります。
ただし、具体的な掛金額は会社の「規約」によって定められます。上限の範囲内(2026年12月以降は6.2万円以内)であれば、それより低い金額を規約で設定することも可能です。
役員報酬の総額や会社の資金繰り、さらには固定費の削減バランスなどを総合的に考慮して、最適な拠出額を決定することが重要です。
会社が企業型DCに加えて、確定給付企業年金(DB)や私学共済といった他の企業年金制度を導入している場合、企業型DCの拠出上限額は、DB等の給付水準を考慮した「他制度掛金相当額」を差し引いて算出されます。
DB併用時の企業型DCの拠出限度額は、2024年12月1日から「月額5.5万円-DB掛金相当額」に変更されました。これまでの月額2.75万円から、個別のDB制度の掛金相当額によって上限額が決定される仕組みとなっています。
また、役員個人がiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している場合、2024年12月の改正以降は、企業型DCの枠内(最大6.2万円 ※2026年12月以降)で「DCで使い切らなかった枠をiDeCoで全額埋める」ことが可能になりました。
これにより、会社制度と個人口座を合わせた合計額で、最大限の非課税メリットを享受できるようになっています。
自社のDBが「相当額」としていくら設定されているか、またiDeCoとの合計でいくら拠出できるかは非常に複雑なため、導入・増額前には必ず最新の規約や社内通知を確認しましょう。
役員の退職金や老後資金を準備する方法として、企業型DCの他にiDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済も有力な選択肢です。
これらの制度は、いずれも掛金が所得控除の対象となるなど税制上の優遇措置がありますが、制度の仕組みや加入対象者、掛金の上限額、リスク特性などが異なります。
それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、自身の状況や目的に合わせて最適な制度を選択、あるいは組み合わせて活用することが賢明です。
企業型DCとiDeCoは、どちらも掛金を自己責任で運用する確定拠出年金ですが、制度の主体や節税の仕組みが異なります。
企業型DCは会社が導入する福利厚生制度であり、掛金は全額が会社の損金(経費)となります。一方、iDeCoは個人が任意で加入し、掛金は個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
役員にとっては、所得税・住民税だけでなく、会社・個人双方の「固定費」を削減できる効果がある企業型DC(選択制)の方が、手取り額を最大化させる上で有利な場合が多いでしょう。
2026年現在、両者の併用に関するハードルは大幅に下がっていますが、以下の内容に注意が必要です。
「規約」の有無に関わらず併用が可能 かつては「会社の規約で併用を認める」という文言が必要でしたが、現在は法改正により、原則としてすべての企業型DC加入者が、規約の有無に関わらずiDeCoを併用できるようになっています。
2026年4月および2027年1月からの拠出限度額の引き上げ 確定拠出年金の拠出限度額の引き上げは、2026年4月と2027年1月に段階的に実施されます。他年金(DB等)がない場合、企業型DCは月額6.2万円が上限となります。iDeCoを併用する場合も、この「月額6.2万円」という枠を、企業型DCとiDeCoで分け合う形になります。また、iDeCoの加入可能年齢も2027年1月から引き上げられます。
「一本化」によるコストメリットの検討 iDeCoは個人で口座管理手数料を負担する必要がありますが、企業型DCの「マッチング拠出(本人上乗せ拠出)」であれば手数料は会社負担となるのが一般的です。2026年4月の法改正でマッチング拠出の制限(会社掛金額を超えてはいけないルール)が撤廃されるため、iDeCoを解約して手数料のかからない企業型DCに一本化し、枠いっぱい(月6.2万円)まで拠出するという選択が、合理的なコスト削減策となる可能性があります。
企業型DCは運用成績によって将来の受取額が変動するリスクがある一方、掛金が会社の損金となるメリットがあります。
対して小規模企業共済は、中小企業の役員や個人事業主のための退職金制度であり、国が運営しているため安全性が高く、運用リスクがありません。
掛金は全額が個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
どちらも節税効果が高い制度ですが、企業型DCは「会社の経費」、小規模企業共済は「個人の所得控除」という違いがあります。
両制度は併用可能で、組み合わせることでリスクを分散しつつ、手厚い退職準備ができます。
役員が自社に企業型確定拠出年金を導入する場合、制度設計から厚生労働省への申請、金融機関の選定、従業員への説明まで、計画的に進めるべき複数のステップが存在します。特に、法的な手続きや規約の作成には専門的な知識が必要となるため、全体の流れを事前に把握しておくことが、スムーズな導入の鍵となります。ここでは、制度導入の検討から実際に掛金の拠出を開始するまでを、具体的なステップに分けて解説します。
最初に、自社の実情に合った制度の骨子を固めます。
まず、掛金を役員報酬から拠出する選択制とするか、会社が上乗せで拠出するか、あるいは両方を組み合わせるかを決定します。
次に、役員や従業員の掛金をいくらに設定するか、役職や勤続年数に応じて差を設けるかなどの具体的なルールを設計します。
あわせて、加入者が運用商品を選ぶ際の選択肢となる、投資信託や預金などの商品ラインナップも検討します。
役員自身のメリットだけでなく、従業員にも魅力的な制度となるよう設計することが重要です。
制度の基本設計が固まったら、その内容をまとめた「確定拠出年金規約」を作成します。この規約は、法律で定められた要件を満たしている必要があり、通常は導入をサポートする金融機関などの専門家と相談しながら作成を進めます。作成した規約案については、従業員代表の同意を得た上で、事業所を管轄する地方厚生局に承認申請を行います。
審査には通常2ヶ月程度の期間を要するため、導入希望時期から逆算してスケジュールを立てることが不可欠です。
企業型DCの運営には、専門の金融機関の協力が不可欠です。
制度運営の中心的な役割を担うのが「運営管理機関」で、加入者への情報提供、投資教育、記録管理などを行います。
そして、加入者の大切な年金資産を分別管理・保全するのが「資産管理機関」です。
多くの金融機関はこれらの役割をセットで提供しており、手数料の安さ、サポート体制の充実度、提供される運用商品の魅力などを総合的に比較検討し、自社に最も適したパートナーを選定します。
厚生労働省の規約承認が得られたら、加入対象となる役員と従業員全員に対して、制度説明会を実施します。
説明会では、企業型DCの仕組みやメリット、税制上の優遇措置などを丁寧に伝えます。
特に、掛金の運用は加入者自身の責任で行うため、資産運用の基礎知識やリスクに関する「投資教育」を実施することが法律で努力義務として定められています。
従業員が安心して制度を利用できるよう、分かりやすい説明を心がけ、継続的な情報提供を行う体制を整える必要があります。
すべての準備が整うと、いよいよ制度がスタートします。
会社は毎月、役員と従業員の掛金を金融機関に納付します。
加入者各自は、会社から提示された運用商品の中から、自身の運用方針に基づいて商品を選択し、掛金の配分を決定します。
運用が開始された後も、自身の資産状況を定期的に確認し、必要に応じて商品の見直し(スイッチングや配分変更)を行うことができます。
長期的な視点に立った資産形成が、制度活用の鍵となります。
企業型DCは役員にとって節税や資産形成の面で多くのメリットがありますが、導入を決める前に理解しておくべき注意点も存在します。
特に、一度拠出した資産は長期間引き出せないという流動性の制約や、制度の導入・維持に伴う会社側のコスト負担、そして従業員に対する継続的な投資教育の義務は重要なポイントです。
これらのデメリットや負担を正しく認識した上で、総合的に導入を判断することが、後のトラブルを避けるために不可欠です。
企業型DCは、あくまで老後の生活資金を確保するための制度です。
そのため、拠出した掛金や運用によって得られた利益は、原則として60歳になるまで現金として引き出すことはできません。
これは、会社の経営が苦しくなったり、役員個人が急に資金を必要としたりした場合でも同様です。
将来の安心のための制度である反面、資金が長期間ロックされるというデメリットがあります。
運用商品には、元本が保証されている定期預金なども含まれますが、この引き出し制限は変わりません。
あくまで生活に影響のない余裕資金で拠出することが大前提となります。
企業型DCの導入・運営は無料ではありません。
会社側には、制度を始める際の初期費用や、運営管理機関に支払う月々の手数料などのコストが発生します。
具体的な費用は、加入者数や選ぶ金融機関によって異なりますが、口座管理手数料や事務委託手数料などが継続的にかかります。
これらのコストは会社の損金として処理できますが、掛金の損金算入による法人税の軽減効果と、運営にかかるコストを比較検討し、会社にとって費用対効果が見合うかどうかを事前にシミュレーションしておくことが重要です。
企業型DCでは、従業員一人ひとりが自己責任で運用商品を選び、資産を形成していきます。
そのため、事業主である会社には、従業員が適切な投資判断を下せるよう、継続的にサポートする「投資教育」を行う努力義務が課せられています。厚生労働省は、継続的かつ適切な投資教育の提供を推奨しています。
これは、制度導入時に一度説明会を開けば終わりというものではなく、定期的な情報提供や研修の機会を設けるなど、継続的な取り組みが求められます。
この努力義務を怠らないことが、制度運営における会社の重要な責任として認識しておく必要があります。
企業型確定拠出年金の平均受取額はいくら?計算方法と賢い受け取り方ここまで企業型確定拠出年金の役員利用について、メリットや注意点を解説してきました。
しかし、実際に自社への導入を検討する段階では、さらに個別具体的な疑問が生じることも少なくありません。
ここでは、役員が企業型DCを検討する際によく寄せられる質問をピックアップし、それぞれ簡潔にお答えします。
ご自身の状況と照らし合わせながら、最後の疑問点を解消するためにお役立てください。
はい、導入可能です。
企業型確定拠出年金は、厚生年金保険の適用事業所であり、厚生年金被保険者が1名以上いれば設立できます。
したがって、社長1人だけの会社であっても、役員が厚生年金に加入していれば制度を導入し、そのメリットを享受することができます。
はい、下がる可能性があります。
役員報酬の一部を掛金にすると、固定費の算定基準となる標準報酬月額が低下します。
これにより社会保険の等級が1つ以上下がれば、毎月の固定費負担は軽減されますが、将来受け取る厚生年金の受給額が減少する点には注意が必要です。
原則としてできません。
役員報酬と連動する掛金の額を事業年度の途中で変更すると、役員報酬を期中で変更したと見なされ、「定期同額給与」のルールに抵触する恐れがあります。
掛金額の見直しは、役員報酬の改定と同様に、事業年度開始から3ヶ月以内に行うのが原則です。
企業型確定拠出年金は、役員報酬の一部を掛金とすることで、会社の損金を活用しながら役員個人の老後資産を非課税で形成できる、非常に有効な制度です。
固定費や所得税・住民税の負担を軽減し、手取り額を最大化する効果が期待できます。
また、企業型DCは、役員報酬の一部を掛金とすることで、会社の損金を活用しながら役員個人の老後資産を形成できる有効な制度です。2026年4月のマッチング拠出制限撤廃や12月の上限6.2万円への引き上げにより、活用の自由度は飛躍的に高まりました。
ただし、導入にあたっては役員報酬の変更が税務上の「定期同額給与」のルールに抵触しないよう、事業年度開始から3ヶ月以内に株主総会で決議するなど、適切な手続きを踏むことが不可欠です。そして2026年1月から施行された「10年ルール(退職所得の調整期間延長)」を考慮した出口戦略が不可欠です。
iDeCoや小規模企業共済といった他の制度との違いも理解した上で、計画的に導入を検討することが求められます。
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掛金は「給与」とみなされないため、個人の所得税・住民税が安くなるほか、標準報酬月額が下がることで本人と会社双方の社会保険料も軽減されます。
将来受け取る老齢厚生年金の額がわずかに減少する可能性があるほか、傷病手当金や失業給付(従業員の場合)の算出基礎額が下がることがあります。
厳禁です。役員報酬は「定期同額給与」のルールがあるため、通常は事業年度開始から3ヶ月以内の株主総会で改定決議を行い、議事録を残す必要があります。
大いにあります。厚生年金加入者であれば1人でも導入可能で、会社の利益を「役員個人の非課税資産」へ効率的に移転できるため、究極の節税・リタイア準備資金となります。
企業型DCを優先すべきケースが多いです。iDeCoは社会保険料の削減効果がありませんが、企業型DC(選択制)なら税金と社会保険料の両方を圧縮できるため、手取り額の増加幅が大きくなります。