投稿日:2026年06月11日
更新日:2026年06月11日
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企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入した際、「掛金の仕訳はどう切ればよいのか」「損金算入のタイミングはいつか」という疑問を持たれる経営者・経理担当者の方は少なくありません。退職給付会計における確定給付型との違いを正しく理解しないまま処理してしまうと、税務調査時に指摘を受けるリスクがあります。本記事では、企業型DC掛金の会計上の性質から具体的な仕訳例、損金算入の条件と注意点、財務諸表への影響まで、SMC総研の専門家が体系的に解説します。これから導入を検討している企業はもちろん、すでに導入済みで会計処理に不安がある方にも参考にしていただける内容です。
目次
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勘定科目 | 「退職給付費用(確定拠出分)」または「福利厚生費」 |
| 損金算入のタイミング | 掛金を実際に拠出(納付)した事業年度 |
| 未払計上 | 認められない(実際の拠出が条件) |
| マッチング拠出 | 加入者負担分は給与控除→企業に費用計上なし |
| 特別法人税 | 現在凍結中(2026年3月末まで)のため実務上の影響なし |
| 注記開示 | 確定拠出制度として注記が必要(会計基準上) |
企業型DCは確定拠出型の退職給付制度であり、掛金を拠出した時点で企業の債務が確定します。確定給付型のような「退職給付引当金」は計上せず、拠出時に費用として一括計上する点が最大の特徴です。
企業型確定拠出年金のメリットは節税と採用力|会社側のデメリットも解説企業型DCは確定拠出型の退職給付制度です。確定給付型(DB)では将来の給付見込額を現在価値で計算し「退職給付引当金」を計上しますが、確定拠出型では将来の年金給付額が拠出した掛金とその運用成果によって決まるため、企業が運用リスクを負いません。
会計処理上、企業型DCの掛金は「退職給付費用」の中の「確定拠出費用」(または「確定拠出制度に係る退職給付費用」)として計上するのが原則です。中小企業など会計基準の適用が任意の場合は、実務上「福利厚生費」として処理するケースも広く見られます。
勘定科目の選択指針
| 会社区分 | 推奨勘定科目 | 根拠 |
|---|---|---|
| 上場企業・大会社 | 退職給付費用(確定拠出分) | 企業会計基準第26号・適用指針第25号 |
| 中小企業(任意適用) | 福利厚生費 または 退職給付費用 | 中小企業向け会計指針・実務慣行 |
どちらの勘定科目を選択しても税務上の損金算入には影響しません。ただし、継続性の原則(同一の会計処理方針を毎期継続して適用すること)に従い、一度決めた方針は原則として変更しないことが重要です。
企業型DC掛金の損金算入時期は、「掛金を実際に拠出(納付)した事業年度」です。これは法人税法上の損金の概念、すなわち「債務確定主義」に基づいています。
確定拠出年金法では、事業主(企業)は規約に定めた掛金を毎月(または一定の周期で)国民年金基金連合会を通じて運営管理機関に拠出します。この拠出行為によって企業の掛金支払義務が確定し、現金が社外に流出します。
重要ポイント:未払計上は損金算入不可
決算期末に「今月分の掛金はまだ引き落とされていないが費用として計上したい」というケースがあります。しかし、未払掛金を費用(未払費用)に計上しても、実際に拠出するまでは損金として認められません。詳しくはセクション4で解説します。
企業型DC掛金の会計・税務処理に関連する主要な法令・基準は以下のとおりです。
確定拠出年金法(平成13年法律第88号)
法人税法・法人税基本通達
企業会計基準(ASBJ)
このセクションのポイント
- 企業型DCは確定拠出型のため、退職給付引当金は不要
- 勘定科目は「退職給付費用(確定拠出分)」または「福利厚生費」を使用
- 損金算入は実際の拠出時(拠出日の属する事業年度)
- 法令根拠:確定拠出年金法・法人税基本通達9-3-1・企業会計基準第26号
企業型DC掛金を毎月拠出する際の基本的な仕訳を示します。
【前提条件】
【仕訳例①:「福利厚生費」を使用する場合】
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)普通預金 200,000円
【仕訳例②:「退職給付費用」を使用する場合(上場企業等)】
(借方)退職給付費用 200,000円 / (貸方)普通預金 200,000円
摘要欄には「企業型DC掛金(〇月分)」と記載しておくと、後から確認しやすくなります。
マッチング拠出とは、企業が拠出する事業主掛金に上乗せして、加入者(従業員)自身も掛金を拠出できる制度です(確定拠出年金法第24条)。加入者掛金は事業主掛金を超えることができず、かつ両者の合計が拠出限度額を超えることもできません。
【前提条件】
マッチング拠出における加入者掛金は、給与から天引きして事業主が代わりに拠出する仕組みです。したがって仕訳は以下のようになります。
【給与支給時の仕訳(加入者掛金の天引き)】
(借方)給与手当 1,500,000円 / (貸方)普通預金 1,380,000円
/ (貸方)預り金(DC掛金) 100,000円
/ (貸方)預り金(源泉所得税等) 20,000円
【掛金拠出時の仕訳(翌月引落し)】
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)普通預金 300,000円
(借方)預り金(DC掛金) 100,000円
または一行にまとめると:
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)普通預金 300,000円
(借方)預り金(DC掛金)100,000円
加入者掛金(従業員が拠出する部分)は企業の費用にはなりません。 従業員が自己負担する掛金を天引きして代わりに納付しているだけであり、企業の損金算入の対象は事業主掛金(200,000円)のみです。
なお、加入者掛金は従業員の個人の確定拠出年金口座に入金され、小規模企業共済等掛金控除(所得控除)の対象となります。
【月次仕訳(標準パターン)】
多くの企業では毎月決まった日に口座引落しが発生します。月次処理として以下を継続して行います。
(毎月の拠出日)
(借方)福利厚生費 ○○○,000円 / (貸方)普通預金 ○○○,000円
【決算時の注意点:未払計上はしない】
3月決算の会社で、3月27日引落しの掛金はすでに費用計上済みです。3月31日時点で「4月分の掛金は4月27日に引落しになる」という場合、この4月分を3月期の費用として未払計上することは認められません。
× 誤った処理(認められない)
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)未払費用 200,000円
→ 実際に拠出していないため損金不算入
【年次まとめ:年間計上額の確認】
年間12回の引落しがあった場合、年間計上額は「月次掛金額 × 12」となります。年度末に運営管理機関から送付される「掛金拠出確認書」や「事業主向け年間報告書」と照合して、計上漏れや二重計上がないかを確認してください。
企業型確定拠出年金とiDeCoの併用条件・メリットを解説!マッチング拠出との比較もこのセクションのポイント
- 基本仕訳:(借方)福利厚生費 or 退職給付費用 / (貸方)普通預金
- マッチング拠出:事業主掛金のみが企業の費用。従業員分は預り金処理
- 決算時の未払計上は不可。実際の拠出日ベースで費用認識
- 年間計上額は運営管理機関の報告書と照合して確認
企業型DC掛金が法人税法上の損金として認められるための条件を整理します。
条件①:確定拠出年金法に基づく規約が整備されていること
企業型DCを導入するには、厚生労働大臣の承認を受けた「企業型年金規約」が必要です。この規約に基づいて拠出された掛金のみが損金算入の対象となります。規約のない実態のみの拠出は認められません。
条件②:拠出限度額の範囲内であること
事業主掛金の拠出限度額は以下のとおりです(2024年12月時点)。
| 他の企業年金の状況 | 月額上限 | 年額上限 |
|---|---|---|
| 他の企業年金あり(DBなど) | 27,500円 | 330,000円 |
| 他の企業年金なし | 55,000円 | 660,000円 |
限度額を超えた掛金は損金に算入できません(確定拠出年金法第19条・第20条)。
条件③:実際に拠出(納付)していること
前述のとおり、掛金を実際に国民年金基金連合会へ拠出した事実が必要です。未払計上のみでは認められません。
条件④:法人税基本通達9-3-1の要件を満たすこと
法人税基本通達9-3-1では、「事業主が確定拠出年金に係る掛金として拠出した金額は、その拠出をした日の属する事業年度の損金の額に算入する」と規定しています。
実務上、最も多く見られる誤りが「決算期末に掛金を未払費用として計上し、翌期の実際拠出時に相殺する処理」です。
これは確定給付型の退職給付引当金の処理と混同してしまうことが原因です。確定給付型では発生主義に基づいて引当金を積み立てますが、確定拠出型では拠出時点で費用が確定するため、未払計上した金額は損金として認められません。
【よくある誤った処理例】
3月決算会社が、3月分の掛金(200,000円)の引落しが4月10日になることを見越して、3月31日に以下の仕訳を切るケース:
× 誤処理(3月31日)
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)未払費用 200,000円
× 翌期4月10日
(借方)未払費用 200,000円 / (貸方)普通預金 200,000円
この場合、3月期の損金に200,000円を計上していますが、税務上は認められず「損金不算入」として申告調整が必要になります。
【正しい処理】
3月31日時点では仕訳を切らず、4月10日の実際の引落し日に費用計上します。
○ 正しい処理(4月10日)
(借方)福利厚生費 200,000円 / (貸方)普通預金 200,000円
→ 4月期(翌期)の損金として算入
なお、規約上の拠出月と実際の口座引落し月がずれる場合(例:3月分を4月に引落し)も、実際の拠出日を基準とすることに変わりはありません。
確定拠出年金の積立金に対しては、特別法人税(年率1.173%)が課される規定があります(租税特別措置法第68条の5)。しかし、この特別法人税は昭和63年以降、繰り返し凍結措置が講じられており、現在(2026年3月末まで)も課税が凍結されています。
そのため、現状の実務では特別法人税の会計処理を行う必要はありません。
ただし、将来的に凍結が解除された場合に備えておくことは重要です。特別法人税が課される場合、事業主(企業)が納付義務を負い、損金算入が認められます。
もし特別法人税が課される場合の仕訳(参考)
(借方)租税公課 ○○,○○○円 / (貸方)普通預金 ○○,○○○円
または従業員から負担させる場合:
(借方)租税公課 ○○,○○○円 / (貸方)普通預金 ○○,○○○円
なお、特別法人税の凍結状況は毎年度の税制改正大綱で確認してください。凍結解除の可能性がある場合は、顧問税理士に相談することをお勧めします。
このセクションのポイント
- 損金算入には「規約の整備」「限度額内」「実際の拠出」の3条件が必要
- 未払計上は税務上認められない。実際の拠出日ベースで処理
- 特別法人税は現在凍結中(〜2026年3月末)。実務上の対応不要
- 確定給付型と混同しないよう注意が必要
企業型DC掛金の損益計算書(PL)への影響を整理します。
損益計算書(PL)上の表示
| 勘定科目 | 表示区分 | 備考 |
|---|---|---|
| 退職給付費用(確定拠出分) | 販売費及び一般管理費 or 製造原価 | 従業員の所属によって区分 |
| 福利厚生費 | 販売費及び一般管理費 or 製造原価 | 同上 |
製造業の場合、製造部門の従業員に係る掛金は「製造原価(労務費)」に含め、販売・管理部門の掛金は「販売費及び一般管理費」に計上します。
貸借対照表(BS)への影響
企業型DCでは退職給付引当金(負債)を計上しません。掛金を拠出した時点で現金が流出し、同時に費用が計上されるため、BS上に残高が残りません。
(拠出時)
(借方)福利厚生費 ○○○,000円 / (貸方)普通預金 ○○○,000円
→ BSへの影響:普通預金の減少のみ
→ 退職給付引当金の増加:なし
確定給付型(DB)と比較すると、企業型DCではBSの負債が膨らまないため、財務状態の透明性が高まるというメリットもあります。
企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」では、確定拠出制度について以下の注記が求められます。
注記事項(確定拠出制度)
注記例(計算書類・財務諸表の注記)
【退職給付関係】
(確定拠出制度)
当社は企業型確定拠出年金制度を採用しています。
当期の確定拠出費用の金額は○,○○○千円です。
上場企業や会計監査を受ける大会社では、この注記は必須です。中小企業向け会計指針に基づく計算書類作成の場合は簡略化が認められますが、同様の情報を開示することが望ましいとされています。
確定給付制度と企業型DCを併用している場合(DB+DC)
確定給付型(DB)と企業型DC(DC)を並行して実施している場合は、それぞれの制度について別々に注記します。確定給付型については引当金残高・数理計算上の差異などの詳細開示が求められ、企業型DCについては上記の簡素な注記が必要となります。
企業型確定拠出年金(DC)とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説このセクションのポイント
- PLへの影響:販管費または製造原価に「福利厚生費」or「退職給付費用」を計上
- BSへの影響:普通預金の減少のみ。退職給付引当金は不要
- 注記:「確定拠出制度の概要」と「当期の確定拠出費用の金額」を開示
- 確定給付型との併用時は別々に注記が必要
企業型DC掛金の会計処理や税務申告に関して、SMC税理士法人では経営者・経理担当者の方からのご相談を承っております。
SMC税理士法人がサポートできる内容
また、NDCセンター(株式会社日本企業型確定拠出年金センター)と連携し、企業型DCの制度設計から会計・税務処理まで一貫してサポートいたします。導入前の無料相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
SMC税理士法人グループ
企業型DC掛金の会計処理と損金算入のポイントをまとめます。
企業型DCは、確定給付型と異なりシンプルな会計処理が特徴です。しかし、「未払計上の禁止」「限度額の管理」「マッチング拠出の取り扱い」など、実務上の落とし穴もあります。会計処理に不安がある場合は、SMC税理士法人またはNDCまでお気軽にご相談ください。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 確定拠出年金導入 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
どちらも会計処理として認められています。上場企業や会計基準を厳格に適用する大会社では「退職給付費用(確定拠出分)」を用いるのが原則です。中小企業では「福利厚生費」を使用するケースが多く、税務上の損金算入には影響しません。ただし、一度選択した科目は継続して使用することが重要です(継続性の原則)。
退職した月の掛金については、規約に基づく取り扱いに従います。一般的に資格喪失日(退職日の翌日)以降の掛金は拠出されません。資格喪失日を含む月の取り扱い(日割り計算の有無等)は規約によって異なるため、運営管理機関に確認してください。既に拠出した掛金が返金される場合は「雑収入」で受け入れます。
できません。企業型DC掛金の損金算入は「実際に拠出した事業年度」が原則です。3月31日時点で未拠出の掛金を費用計上(未払費用計上)しても、税務上は損金として認められません。申告調整(加算)が必要になりますのでご注意ください。
なりません。マッチング拠出における加入者掛金(従業員が自己負担する部分)は、企業が従業員の給与から天引きして代わりに納付するものです。企業の費用ではなく、従業員個人の掛金です。企業の損金になるのは事業主掛金のみです。
限度額超過分の掛金は確定拠出年金法上の「事業主掛金」として認められず、税務上も損金算入できません。超過分は雑費として処理されることになりますが、その前に運営管理機関から超過の通知がある場合が多いです。限度額の確認を徹底し、規約を定期的に見直すことをお勧めします。
特別法人税は「租税公課」として費用計上します。税率は積立金残高に対して年率1.173%です(租税特別措置法第68条の5)。現在(2026年3月末まで)は凍結中のため実際の課税はありませんが、制度変更に備えて情報収集しておくことをお勧めします。
企業会計基準第26号に基づき、「確定拠出制度の内容(企業型確定拠出年金を採用している旨)」と「当期の確定拠出費用の金額」を注記します。中小企業向け会計指針に従って計算書類を作成している場合は、同様の趣旨の注記を簡略化して記載することが認められます。具体的な文例は本記事「5. 財務諸表への影響」をご参照ください。
確定給付型(DB)と企業型DC(DC)はそれぞれ独立した制度として会計処理します。DBについては「退職給付引当金」の計上、数理計算、開示が必要です。DCについては掛金拠出時に費用計上するだけでよく、引当金は不要です。注記はそれぞれ別々に記載します。合算管理は認められませんのでご注意ください。
原則として損金算入可能です。ただし、役員報酬規程との整合性に注意が必要です。役員の掛金が不相当に高額と判断された場合、過大役員給与として損金不算入とされるリスクがあります。役員と従業員の掛金に著しい差がある場合は、事前に税務上の取り扱いを確認することをお勧めします。