投稿日:2026年06月12日
更新日:2026年06月12日
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AFP・DCプランナーとして企業型DC導入を支援する宍戸沙綾(株式会社SMC総研 / NDCセンター 企業型DC導入支援グループ)が解説します。企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入後、「掛金を減らしたい」「一時的に止めたい」というご相談を経営者様からいただくことがあります。しかし、掛金の変更・停止には規約改定という正式な手続きが必要であり、誤った対応をすると税務・会計上のトラブルにつながります。本記事では、手続きの流れと税務上の注意点を具体的に解説します。
目次
掛金の増減・変更は、企業型年金規約の改定と地方厚生(支)局への届出・承認が必要です。「今月から掛金を減らす」という経営判断だけでは対応できず、正式な行政手続きを経なければなりません。また、掛金の「停止(拠出を完全にゼロにすること)」は、規約上に掛金ゼロを認める定めがあれば可能ですが、制度を廃止しない限り加入者の資格は維持されます。制度そのものを廃止することなく「実質的に止める」手段として「掛金ゼロ」の活用が検討されます。
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- 掛金変更には規約改定+地方厚生局への届出・承認が必要(確定拠出年金法第6条・第9条等)
- 「停止」と「掛金ゼロ」は法律上の扱いが異なる
- 規約改定が完了する前に掛金を変更すると、拠出の適法性が失われる
企業型DCの掛金は「企業型年金規約」に明記されており、これを変更するには厚生労働大臣(実務上は管轄の地方厚生(支)局)への届出・承認が必要です(確定拠出年金法第6条・第9条)。
掛金の増減変更に必要な手続きの流れは以下のとおりです。
1. 規約変更案の作成 現行の企業型年金規約の掛金に関する条項を改定します。掛金の上限は、他の企業年金がない場合は月額55,000円(2024年12月改正後)が拠出限度額です。
2. 従業員への説明・同意取得 規約変更は加入者(従業員)に対して周知・説明が必要です。特に掛金を引き下げる場合は、加入者の同意を適切に取ることが実務上の要件です。
3. 地方厚生(支)局への届出・承認申請 変更後の規約を管轄の地方厚生(支)局に提出し、承認を受けます。承認が下りた日以降に変更後の掛金が有効となります。
4. 運営管理機関・事務委託先への連絡 承認取得後、運営管理機関(金融機関等)に掛金変更の手続きを申請します。
税務上のポイント:損金算入は「実際に拠出した月」から
企業型DCの事業主掛金は、拠出した金額が全額損金算入されます(法人税法上の取扱い)。掛金を減額した場合、減額後の掛金のみが損金となります。
試算例:掛金削減前後の法人税への影響
| 変更前 | 変更後 | |
|---|---|---|
| 月額掛金(10名分) | 200,000円 | 100,000円 |
| 年間掛金総額 | 2,400,000円 | 1,200,000円 |
| 損金算入額(年) | 2,400,000円 | 1,200,000円 |
| 法人税節税額の差(実効税率30%の場合) | — | 約360,000円の節税減 |
掛金を削減すれば損金算入額も下がるため、節税効果は縮小します。経営上の判断として掛金削減が必要な場合でも、減額幅と節税効果のバランスを顧問税理士と確認することをお勧めします。
業績悪化により掛金拠出が困難になった場合、選択肢は次の3つです。
(A)掛金を規約上の最低額に削減する 規約に定める最低掛金額(例:月額5,000円)まで引き下げる規約改定を行います。制度は存続させたまま負担を最小化できます。
(B)規約上に「掛金ゼロ」条項を設けて実質的に停止する 規約の改定により「一定の条件下では掛金をゼロにできる」旨を定め、地方厚生局の承認を得れば、制度を廃止せずに掛金拠出を停止できます。ただし、掛金がゼロの月は損金算入額もゼロになります。また、加入者の口座維持手数料(年間数千円程度)は発生し続けます。
(C)制度廃止(規約廃止) 事業の大幅な縮小・廃業等に伴い制度そのものを廃止する場合は、地方厚生局への廃止届が必要です。加入者の積立資産はiDeCoや転職先のDCへ移換(ポータビリティ)されます。
掛金を年度途中で変更した場合、損金算入額は月ごとに計算します。たとえば4月に規約改定が完了し、5月から掛金を変更した場合は、4月以前の旧掛金と5月以降の新掛金がそれぞれ損金となります。
重要な注意点:規約改定前に変更した掛金は損金算入の適法性が問われます。 承認前に実際の支払額を変えることは、規約との不一致を生じさせるため、税務調査で指摘されるリスクがあります。
このセクションのポイント
- 掛金変更の手順:規約改定案作成→従業員への説明→厚生局へ届出・承認→運営管理機関へ連絡
- 業績悪化時は「掛金削減」「掛金ゼロ」「制度廃止」の3択を比較検討する
- 損金算入は規約改定承認後の拠出から適用される
「来月から掛金を半分にしよう」と経営判断し、規約改定の承認を待たずに支払額を変えてしまうケースがあります。この場合、規約に定めた額と実際の拠出額が一致しない状態が生じます。
対策:掛金変更の意向が固まった時点ですぐに運営管理機関・社会保険労務士・税理士に相談し、規約改定手続きを開始することが重要です。
掛金をゼロにしても、企業型DCの口座維持に関する運営管理機関への手数料(一般的に加入者1人あたり年間数千円)は発生し続けます。従業員が多い企業では年間で数十万円規模になることもあります。
また、加入者(従業員)の口座内の資産は運用指図者として引き続き残り、口座管理手数料が資産から差し引かれ続けます。
対策:掛金停止(ゼロ)を長期間継続するつもりであれば、制度廃止によるコスト削減も視野に入れて検討することを勧めます。廃止に伴う手続き費用と、存続させた場合のランニングコストを比較することが重要です。
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- 規約改定なしの掛金変更は税務リスクを生む
- 掛金ゼロ期間中も口座維持手数料は発生し続ける
- 長期停止なら「廃止」と「存続」のコストを比較して判断する
企業型DCの掛金変更・停止に際して、経営者の方にとっていただきたいアクションを3点にまとめます。
1. 「変更したい」と思ったら、まず運営管理機関と顧問税理士に連絡する 掛金の変更は行政手続きを伴うため、相談から実際の変更まで数カ月かかる場合があります。思い立ったら早めに動くことが大切です。
2. 掛金削減の前に、節税効果の縮小額を試算する 掛金を減らすことで当面のキャッシュフローは改善しますが、損金算入額が減ることで法人税の負担が増加します。削減幅と税負担の増減を確認した上で意思決定することをお勧めします。
3. 廃止・停止・削減のどれが最適か、複数の選択肢を比較する 業績悪化の程度や将来の見通しによって、最適な選択肢は異なります。SMC税理士法人では、企業型DCの税務・会計上の取扱いに精通した専門家が個別のご状況に応じたアドバイスを提供しています。
企業型DCの掛金変更・停止は、規約改定と地方厚生(支)局への届出・承認が必須であり、経営判断だけで即座に実行できるものではありません。掛金を変更すれば損金算入額も変動し、法人税への影響が生じます。また、掛金停止中も口座維持手数料は発生するため、長期停止を検討している場合は制度廃止との比較検討が重要です。企業型DCの変更・停止を検討している場合は、ぜひSMC税理士法人にご相談ください。税務・会計の専門家として最適な手続きをサポートします。
出典・参考情報
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 確定拠出年金導入 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
規約改定の届出から地方厚生(支)局の承認まで、一般的に1〜3カ月程度かかります。その後、運営管理機関側の手続きに数週間かかる場合もあります。変更を急ぐ場合は早めに着手することが重要です。
加入者の個人別管理資産はそのまま保持されます。ただし、加入者は「運用指図者」として引き続き投資信託等の運用指図を行うことになります。口座維持手数料は資産から差し引かれ続けます。
はい。増額も減額と同様に規約改定と地方厚生(支)局への届出・承認が必要です。ただし、現行の規約に「掛金の範囲」を幅を持たせて定めている場合(例:「月額5,000円以上55,000円以下」など)は、その範囲内での変更であれば規約改定が不要なケースもあります。詳しくは運営管理機関にご確認ください。
損金算入は実際に拠出した月の費用として計上します。規約改定承認後の初回拠出日から新たな掛金額での処理となります。年度をまたぐ場合でも、各事業年度に実際に拠出した金額がその事業年度の損金となります。仕訳は「退職給付費用(または福利厚生費)」として処理することが一般的です。
いいえ。企業型DCの事業主掛金は拠出時に損金算入されており、制度廃止によって過去の損金算入が取り消されることはありません。廃止手続きに伴う費用が生じる場合はその費用が別途損金算入の対象となります。