投稿日:2026年03月05日
更新日:2026年05月14日
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企業型確定拠出年金の掛金をいくらに設定するかは、企業と従業員の双方にとって重要な問題です。
掛金の金額を決めるには、法律で定められた上限や一般的な相場を理解した上で、適切な計算方法を選択する必要があります。
本記事では、企業の制度設計担当者と従業員、それぞれの視点から企業型DCの掛金の決め方について、平均額や具体的な計算ルールを交えながら解説します。
目次
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業の退職金・年金制度の一つです。
企業が毎月掛金を拠出し、従業員自身がその資金を運用して、将来の老後資金を形成する仕組みになっています。
運用成績によって将来受け取る金額が変動するのが特徴で、従業員の自主的な資産形成を支援する制度として多くの企業で導入が進んでいます。
企業型確定拠出年金は、原則として企業が掛金を全額負担し、その資金を加入者である従業員が自らの判断で運用する私的年金制度です。
企業は従業員ごとに専用の口座を開設し、毎月一定の掛金を拠出します。
従業員は、企業が提示する複数の金融商品(投資信託、保険商品、定期預金など)の中から、自身の運用方針に合わせて商品を選択し、ポートフォリオを組みます。
運用によって得られた利益は非課税となり、元本と合わせて積み立てられ、原則として60歳以降に年金または一時金として受け取ることが可能です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCo(個人型確定拠出年金)は、ともに老後資金形成を目的とした制度ですが、最も大きな違いは掛金を誰が拠出するかという点にあります。
企業型DCでは、原則として事業主である企業が掛金を拠出します。
一方、iDeCoは加入者である個人が自身の資金から掛金を全額拠出する制度です。
また、口座管理手数料の負担者も異なり、企業型DCでは一般的に企業が負担しますが、iDeCoでは加入者本人が負担します。
以前は加入対象者が明確に分かれていましたが、法改正により条件を満たせば両制度の併用も可能になりました。
企業が企業型DCの掛金(事業主掛金)を設定する際には、公平性や従業員の納得感を考慮したルール作りが求められます。
一般的に採用される掛金の決め方には、全従業員に一律の金額を設定する「定額制」、給与などに応じて変動させる「定率制」、そして両者を組み合わせた方法の3つがあります。
どの方法を選択するかは、企業の退職金制度の位置づけや人事戦略によって異なります。
定額制は、役職や勤続年数、年齢などに関わらず、制度に加入する全従業員に対して一律で同額の掛金を設定する最もシンプルな方法です。
例えば、「全従業員、月額5,000円」のように決められます。
この方式のメリットは、制度設計が非常に分かりやすく、従業員への説明や企業の管理業務が容易である点です。
また、全従業員に公平な機会を提供するという観点からも採用しやすいルールと言えます。
一方で、給与水準の高い従業員やベテラン社員にとっては、掛金額が相対的に少なく感じられる可能性があり、貢献度を反映しにくいという側面もあります。
企業型確定拠出年金における掛金額の決定方法の一つとして、従業員の給与や勤続年数などの基準に、企業が設定した一定の割合を適用する方法が考えられます。例えば、「基本給の3%」や「勤続年数×1,000円」のように設定されることがあります。
この方法の利点としては、給与や勤続年数の増加に応じて掛金額も増える傾向があるため、従業員の会社への貢献や長期的な勤務に対する動機付けにつながりやすい点が挙げられます。一般的に、年収が高い従業員ほど多くの掛金が拠出されることになり、より充実した資産形成支援に繋がる可能性があります。一方で、給与の変動があった際には掛金額の再計算が必要となるなど、定額制と比較して管理が複雑になることも考えられます。
定額制と定率制を組み合わせることで、両者の長所を活かした、より柔軟で企業の実情に合った制度設計が可能になります。
この方法では、全従業員に共通の基礎部分として定額の掛金を設定し、それに加えて役職や等級、評価などに応じた定率の掛金を上乗せします。
例えば、「全従業員に基礎掛金として月額3,000円を拠出し、さらに役職に応じて基本給の1〜5%を追加で拠出する」といった設計です。
これにより、全従業員への最低限の福利厚生を確保しつつ、貢献度や役割に応じたメリハリのある掛金設定が実現でき、従業員のモチベーション向上にもつながります。
企業型確定拠出年金の掛金は、企業が自由にいくらでも設定できるわけではなく、法令によって拠出できる上限額が定められています。
この上限額は、企業が導入している他の企業年金制度の有無によって異なります。
制度を設計する企業担当者は、自社の状況に合わせて法律上の拠出限度額を正しく理解し、その範囲内で掛金を設定しなければなりません。
企業型確定拠出年金(企業型DC)のみを退職金・年金制度として導入しており、確定給付企業年金(DB)などの他の企業年金制度がない場合、掛金の上限額は月額5.5万円(年額66万円)に設定されています。月額5.5万円は、改正後もこの上限額自体は変わりません。
この上限額は、事業主が拠出する掛金と、従業員が任意で上乗せするマッチング拠出の掛金の合計額に対するものです。
したがって、事業主の掛金と従業員のマッチング拠出額を合わせて、月額5.5万円を超えることはできません。
制度設計の際には、この上限額を前提として掛金ルールを検討する必要があります。
企業が企業型確定拠出年金(企業型DC)に加えて確定給付企業年金(DB)や厚生年金基金といった他の企業年金制度も併せて導入している場合、2026年12月1日の改正後は企業型DCの掛金上限額は「月額6.2万円から確定給付型企業年金等の掛金相当額を差し引いた金額」となります。複数の制度からの給付が過大になることを防ぐための調整です。
この上限額も、事業主が拠出する掛金と従業員が上乗せするマッチング拠出の合計額に対して適用されます。
自社に他の企業年金制度が存在するかどうかで上限額が大きく変わるため、事前の確認が不可欠です。
2024年12月の法改正により、企業型DCの加入者も原則としてiDeCoを併用できるようになりました。併用する場合、掛金の上限額は両制度の合計で管理されます。
具体的には、企業型DCの事業主掛金額とiDeCoの掛金額の合計が、企業型DCの拠出限度額を超えてはいけません。iDeCoに拠出できる金額は月額2万円が上限となります。
なお、企業型DCのマッチング拠出を利用している場合はiDeCoとの併用ができないため、どちらか一方を選択する必要があります。
将来的な変更として、令和7年度税制改正大綱では、企業型DCの拠出限度額が月額6.2万円に、iDeCoの拠出限度額が月額2.3万円から6.2万円に引き上げられる予定です。また、マッチング拠出の規制緩和も検討されています。
企業型DCと新NISAはどっちを優先?違いと賢い併用・使い分けを解説自社の掛金をいくらに設定すべきか検討する際、他の企業がどの程度の金額を拠出しているのか、その平均相場は重要な参考情報となります。
公表されているデータを参照することで、一般的な掛金水準を把握できます。
ここでは、事業主が拠出する掛金の平均額と、従業員が任意で上乗せするマッチング拠出の平均額について見ていきましょう。
※以下のデータは法改正前の調査に基づく統計値です。今後の制度設計の目安としてご参照ください。企業年金連合会の2023年度調査(2025年3月27日時点)によると、企業型確定拠出年金における事業主掛金の月額平均は、拠出限度額2.75万円の企業で10,631円、拠出限度額5.5万円の企業では15,684円(前回15,276円)でした。
また、制度のタイプによっても平均額に違いが見られます。
全従業員が加入する従来型の企業型DCでは平均13,767円、給与の一部を掛金にするか選択できる選択制DCでは平均14,567円というデータもあります。これらの金額から、多くの企業では月額1.4万円から1.5万円程度を一つの目安として掛金を設定していることがうかがえます。
ただし、これはあくまで全体の平均値であり、実際には企業規模や業種によって大きく異なります。
マッチング拠出は、企業が拠出する掛金に加えて、従業員自身が任意で掛金を追加できる制度です。
この制度を利用している従業員は、平均で月額8,216円(拠出限度額5.5万円の企業)または5,779円(拠出限度額2.75万円の企業)を上乗せしているというデータがあります(企業年金連合会、2020年度決算確定拠出年金実態調査結果、2022年3月25日公表)。
マッチング拠出で従業員が拠出できる金額には、「事業主の掛金額を超えない」こと、そして「事業主掛金と合計して拠出限度額の範囲内」であることという2つのルールがあります。
節税メリットが大きいため、家計に余裕のある従業員が積極的に活用している状況が分かります。
勤務先の企業型DCでマッチング拠出や選択制DCが導入されている場合、従業員は自分自身の掛金額を決める必要があります。
自分に合ったおすすめの金額を設定するためには、現在の家計の負担や将来の目標をしっかり確認することが重要です。
ここでは、無理なく効果的に資産形成を進めるための具体的な4つのステップを紹介します。
掛金額を決める最初のステップは、現在の家計状況を正確に把握することです。
毎月の収入と、食費や住居費、光熱費などの固定費・変動費をすべて洗い出し、自由に使えるお金がいくらあるのかを計算します。
企業型DCの掛金は原則60歳まで引き出すことができないため、急な病気や失業に備える生活防衛資金とは別に、余裕資金の中から拠出することが大切です。
最初は最低額や0円(選択制の場合)から始めて、家計に余裕が出てきたタイミングで見直すという方法も有効です。
まずは継続できる無理のない金額を見つけることから始めましょう。
将来の目標から逆算して必要な金額を考えるアプローチを取り入れます。
自分がどのような老後生活を送りたいかを具体的にイメージし、そのためには毎月いくらくらいの生活費が必要になるかを試算します。
その上で、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で将来受け取れる公的年金の見込み額を確認し、理想の生活費との差額、つまり老後までに自分で準備すべき金額を算出します。
この目標額を達成するためには、毎月いくら積み立てる必要があるかを計算することで、企業型DCで設定すべき掛金額の具体的な目安が見えてきます。
勤務先の制度でマッチング拠出が可能な場合、掛金を追加すべきか検討しましょう。
最大のメリットは、自身で拠出した掛金の全額が所得控除の対象となる点です。
これにより、毎年の所得税と住民税が軽減される高い節税効果を得られます。
また、運用期間中に得た利益も非課税となるため、効率的な資産形成が可能です。
一方、デメリットは拠出した分だけ手取り収入が減ること、そしてその資金は原則60歳まで引き出せないという流動性の低さです。
これらのメリット・デメリットを比較し、自身の家計状況やライフプランと照らし合わせて、掛金を増やすかどうかを慎重に判断することが求められます。
選択制DCは、給与の一部をそのまま給与として受け取るか、掛金として拠出するかを従業員が選べる制度です。
掛金として拠出した金額は給与所得とはみなされず、所得税や住民税の課税対象から外れるため、節税効果があります。
さらに、固定費の算定基礎となる標準報酬月額が下がることで、厚生年金保険料や健康保険料の負担が軽減されるケースもあります。
しかし、これは将来受け取る厚生年金額や、病気やケガで休業した際の傷病手当金の額が減少する可能性も意味します。
目先の手取り額の変化だけでなく、将来の給付への影響も考慮してシミュレーションを行い、総合的に判断することが重要です。
企業型DCで毎月積み立てる掛金が、将来の資産額にどれほどの違いをもたらすのでしょうか。ここでは、毎月の掛金額別に、30年間積み立てた場合の将来の受取額をシミュレーションします。
積立額がたとえ5000円や1万円といった少額でも、長期で運用することのインパクトを具体的な数字で確認してみましょう。以下のシミュレーションは、年率2%の複利で運用できた場合を想定しており、手数料は考慮していません。
毎月1万円を30年間、年率3%の利回りで運用した場合のシミュレーション結果です。
積立元本の合計は、1万円×12ヶ月×30年で360万円となります。
これに対し、30年後の資産総額は約583万円に達する計算です。
つまり、元本に加えて約223万円もの運用収益が生まれることになります。
これは、長期間にわたって運用を続けることで、利益が利益を生む「複利の効果」が大きく作用するためです。
毎月1万円という無理のない金額でも、コツコツと継続することで着実な資産形成が可能であることがわかります。
次に、毎月の掛金を3万円に設定し、同様に30年間、年率3%の利回りで運用した場合を見てみましょう。
この場合の積立元本合計は、3万円×12ヶ月×30年で1,080万円です。
30年後の資産総額は、シミュレーション上では約1,748万円にまで増加します。
運用によって得られる利益は約668万円となり、元本に対して大きなプラスを生み出しています。
掛金額を増やすことで、将来受け取れる資産額が飛躍的に大きくなることが分かります。
家計に余裕があれば、積極的に積立額を増やすことで、より豊かな老後資金の準備につながります。
最後に、毎月5万円を積み立てた場合のシミュレーションです。
同じく30年間、年率3%の利回りで運用した場合、積立元本の合計は5万円×12ヶ月×30年で1,800万円となります。
そして、30年後の資産総額は約2,913万円に達する見込みです。
このケースでは、運用収益だけで約1,113万円となり、元本を大きく上回る利益が期待できます。
拠出限度額に近い金額を長期間にわたって積み立てることで、複利効果が最大限に発揮され、非常に大きな資産を築ける可能性があることをこのシミュレーションは示しています。
企業型確定拠出年金の掛金の決め方は、企業の退職金制度の方針と、従業員個々のライフプランの両面から考える必要があります。
企業担当者は、法律上の上限額や業界の平均相場を参考にしつつ、定額制や定率制といったルールの中から自社に適した方法で制度を設計します。
一方、従業員は、マッチング拠出や選択制DCといった制度を活用する際、自身の家計収支や将来の目標から逆算し、無理のない範囲で最適な掛金額を設定することが重要です。
それぞれの立場から制度を正しく理解し、計画的に掛金を設定することで、企業にとっては福利厚生の充実、従業員にとっては着実な老後資産形成が実現します。
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全員同額の「定額制」、給与や勤続年数に応じた「定率制」、およびこれらを組み合わせる方法の3つが一般的です。
マッチング拠出のルールにより、会社の拠出額と同じ「5,000円」までが上限となります。
「事業主の掛金額を超えないこと」かつ「事業主掛金との合計が拠出限度額(5.5万または2.75万)以内であること」というルールがあります。
税金や固定費が軽減されるメリットがある一方、将来受け取る厚生年金額や傷病手当金が減少する可能性があります。
会社の掛金増額に合わせて自分の拠出枠も広がりますが、自動では増えないため、自身で変更手続きが必要です。