投稿日:2022年01月28日
更新日:2023年08月24日
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会社に資金が不足した場合、役員特に社長からお金を入れてもらうことがあります。手軽な資金調達の方法なので特に同族会社ではよくおこなわれますが、精算することなく膨らんでしまうと思わぬ問題になることがあります。
この記事では役員借入金のデメリット、減らし方についてご説明していきます。
目次
役員借入金は会社が役員、主に社長から借りたお金です。無利息で借りることもできますし、返済期限を決めないこともできます。社長が資金を持っていれば手軽に借りることができるので、会社の資金調達によく利用されます。
個人事業の超カンタンな帳簿このように役員借入金は手軽な資金調達方法ですが、会社の資金繰りが好転しないとなかなか返済ができずに、どんどんと膨れ上がり思わぬ金額になってしまうこともあります。膨れ上がる状況は以下のようなことが考えられます。
金額が大きく膨れ上がってしまったときにはデメリットが顕著に生じるため注意が必要です。以下、役員借入金のデメリットをご説明します。
会社から見れば借入金ですが、役員から見れば会社への貸付金であり、債権です。もし役員が亡くなった場合はこの債権も相続財産になり、特に金額が大きくなると相続税の負担が大きくなります。
会社の経営状態が悪く債権が回収できなさそうな状況であっても、株価のように時価評価されずに額面のまま相続税の対象になります。相続財産が大きくなり相続税の負担が増える挙句に、債権も回収できないというつらい状況になってしまいます。
「役員借入金」は負債です。負債が膨れ上がれば自己資本比率が悪化し、さらには債務超過に陥る危険もあり、金融機関からの評価が下がります。ただし財務面では役員借入金として決算書上で表示し銀行へ説明をすれば、資本と同様の扱いとして評価されることもあるためアピールしておきましょう。
また役員借入金が多いことは、会社が役員から借入をしただけでなく、会社の経費を精算していないことも大きな理由になっていることが多くあります。このため会社と個人の財布が分離できずに経営管理がずさんであると判断され、金融機関からの評価が下がるリスクがあります。会社と個人の財布はきちんと分離するようにしておきましょう。
このように役員借入金にはデメリットがあります。では減らす場合にはどのようにすればよいでしょうか?単純に資金を返済する以外に、実行しやすい順にご紹介します。
まずは役員報酬を減額してその分浮いた金額を役員借入金の返済にあてる方法です。
特に経営状態の悪い会社では効果的です。役員報酬は損金になるため、減額すれば損金が減り法人税の負担が増えます。しかし経営状態が悪く赤字で繰越欠損も多い場合は、法人税の負担がもともとないのでその時点での影響がありません。役員報酬を減額すれば役員の社会保険料や所得税の負担も減り、さらなるメリットがあるでしょう。
また会社が役員借入金の債務免除をする方法があります。この場合、法人側では「債務免除益」として益金が計上され、法人税の負担が発生します。
しかし上記と同様赤字で繰越欠損も多い場合は、法人税の負担がもともとないのでその時点での影響がありません。また経営状態が悪い状態が続いていて繰越欠損金が期限切れになってしまう場合には、期限切れになる前に役員借入金の免除を検討するとよいでしょう。
ただし債務免除すると、もう会社から資金を返済してもらえないということですので、その点を理解しておきましょう。
また、債務免除をする場合には、みなし贈与にも注意しましょう。会社によっては、役員借入金を免除した場合、会社の株価が急激に上昇します。社長が全ての株式を保有していれば問題ありませんが、他に株主がいる場合、その株式も価値が上がり得をすることになり、社長から他の株主に間接的な贈与を行ったとみなされる可能性があります。
役員個人の側で相続財産を減らす方法として暦年贈与があります。年間110万円までは贈与税がかからずに後継者などに贈与できます。
しかし会社への債権が減る訳ではないので、相続財産が発生するのを先送りしている状況です。他の相続財産と同様に相続対策が引き続き必要になります。
DESとは負債を資本に変える方法です。具体的には役員借入金を現物出資し、資本金を増加させます。これにより負債が減り資本金が増えるので自己資本比率も良くなり、財務状況が改善します。しかし資本金へ振替をする際には役員借入金を時価換算するため、経営状態が悪い場合は時価が低くなり、債務免除益と同様に法人税の負担が発生する可能性があります。また、資本金の金額があまり増加すると、均等割の金額が上がるなど、中小企業の税務上の優遇措置が受けられなくなる可能性があるため、増資の前によく確認しておきましょう。
DESも債務免除と同様、株の価値の増加に対して、みなし贈与が発生する可能性があります。注意しましょう。
以上役員借入金のデメリットと減らし方についてご紹介しました。
役員借入金は前述したように無利息無期限とできる便利な資金調達方法ですが、ここでご紹介したようなデメリットも把握して、現時点での残高を把握しておきましょう。
役員借入金の減らし方の手段、タイミングは会社の状況を見たうえで判断が必要です。
いずれにせよ、役員借入金が増えれば増えるほど対応しづらくなります。早めに対策を行いましょう。
不安な場合は税理士にご相談ください。
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基本的には役員借入金があるからといって審査が不利になるということはありません。又、役員借入金は銀行が「実質的には返済義務のない借入金」判断した場合は資本金のように見做して審査する場合があります。
返済するか、資本に振り替えるか、会社にお金がないのであれば債務免除するなどの方法があります。いずれにせよそのまま放置することは好ましいことではありません。
会社にとっては役員借入金を減らすことができ、役員報酬という経費がかかりません。
返済を受ける役員は非課税で会社からお金を受け取れるメリットがあります。
このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。