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居住用賃貸建物の仕入税額控除ができなくなった税法改正を税理士が解説

居住用賃貸建物の仕入税額控除制度で消費税はどう変わった?

投稿日:2021年12月20日

更新日:2023年08月28日

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ここ最近、毎年のように税金の改正が行われています。しっかりと情報を入手して、対策していく必要性を感じておられる方も多いのではないでしょうか?そうしないと予想外の税金支払いの通知が、突然届くということにもなりかねません。

近年でいうと、令和2年度に消費税法の改正が行われました。その改正の中に、わりと身近なテーマである「居住用の賃貸建物を取得するときにかかる消費税」についてのものがありました。そこでこの記事では、それについて解説していきます。

居住用賃貸建物の仕入税額控除ができなくなりました

今回の改正をひと事でいいますと「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税を、返してもらえなくなった」ということになります。
まずは、ここでいう「居住用として貸す建物」や「購入などするときにかかる消費税を、返してもらえなくなった(仕入税額控除)」とは、どのようなものか説明します。

居住用の賃貸建物とは?

居住用として貸す建物とは、目的が不明な建物を含む居住用として貸す建物で、購入や建設にかかったお金が税込み1,000万円以上のものをいいます。その金額には、付属設備も含まれます。
「居住用」なので、事務所や工場・店舗などの「事業用」として貸す建物は含まれません。

仕入税額控除制度とは?

「取得するときにかかる消費税を返してもらう」制度をかんたんに言いますと、「何かを売ったときなどに預かった消費税」から「何かを買ったときなどに支払った消費税」を差し引いて、「実際に税務署などに支払う消費税」を計算することをいいます。これは会社など事業を運営している人が、消費税を二重に支払うことを防ぐために出来た仕組みです。

預かった消費税-支払った消費税=実際に税務署などに支払う消費税

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消費税法の改正のポイントと背景

今回の令和2年度にされた消費税法の改正は、「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税を、返してもらえなくなった」ということですが、なぜこのような改正がされたのか説明します。

消費税法の改正のポイント

国税庁は、今回の消費税の改正を「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化」と説明しています。国税庁からすると、本来のあるべき姿に戻したということになるようです。
その内容は「国内で居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税について、仕入税額控除の対象にしない」というものです。
そして、令和2年10月1日以降の「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」から返してもらえなくなりました。ただし、令和2年3月31日までに契約したものは、令和2年10月1日以降の「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」も、改正前の消費税法での取り扱いとなります。

消費税法の改正の背景

ここまでで、消費税法の改正で「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」を「返してもらえなくなった」と説明しました。
しかし、「居住用として貸す建物の家賃収入は、消費税が非課税」なので、それに対する「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」は、もともと仕入税額控除の対象外です。
ただし、「売上の規模の小さい会社などに対して特例的に、仕入税額控除の対象としていました。」あくまで特例措置だったのですが、消費税の節税方法の1つとして、手を変え品を変えて、消費税を返してもらおうとする事例が後を絶たず問題視されていました。
そして、これを適正化するために、今回の改正につながったというわけです。

改正前と改正後の居住用賃貸建物の仕入税額控除

改正前の居住用賃貸建物の取り扱い

前述したように、改正前も本来は「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」は、もともと仕入税額控除の対象外でした。
ただし、特例として売上の規模の小さい会社(課税売上の割合が95%以上で、かつ、課税売上が5億円以下)の場合は、「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」を「返してもらえていた」のです。
また、別の方法として、「一括比例配分方式」という消費税の計算方法を選べば、消費税がかからない売上に対する支出であっても、一定の割合分を仕入税額控除の対象にできました。
このように、消費税法の改正前は、「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」を返してもらえる特例措置がありました。

改正後の居住用賃貸建物の取り扱い

消費税法の改正後の「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」の取り扱いは明確です。仕入税額控除もできなくなり、改正前の特例措置もなくなったのです。

改正前と改正後の消費税額の比較

下記の例をもとに、納付する消費税額を計算すると、改正後の消費税の納付額は、1,000万円も多くなります。

例)消費税のかかる売上が2億円で、居住用として貸す建物の取得費を1億円支払った

【改正前】
「課税売上の割合が95%以上で、かつ、課税売上が5億円以下」なので、支払った居住用として貸す建物の取得費1億円は、仕入税額控除できます。
①売上に係る消費税額:2億円×10%=2,000万円
②仕入に係る消費税額:1億円×10%=1,000万円
③納付する消費税額:2,000万円-1,000万円=1,000万円

【改正後】
支払った居住用として貸す建物の取得費1億円は、仕入税額控除の対象にできません。
①売上に係る消費税額:2億円×10%=2,000万円
②仕入に係る消費税額:0円
③納付する消費税額:2,000万円-0円=2,000万円

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注意点!改正後も仕入税額控除が受けられる?

ここまで、消費税法の改正後は「居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税」を返してもらえなくなり、改正前の特例措置もなくなったと説明させて頂きました。
しかし、改正後も仕入れの税額が控除できる場合があります。居住用として貸す建物の購入などから3年以内に「店舗など事業用として貸した場合」や「賃貸建物自体を売却した場合」には、一定の金額を仕入税額控除に加算調整できることになりました。

「事業用として貸した場合」のケースをもとに計算してみます。

「居住用」として貸す建物を「事業用」として貸すことにした場合

居住用として貸す建物として購入などしてから3年間以内に、事業用として貸すことにした場合は、購入などしてから3年目に、一定金額を仕入れの税額控除に加算できます。

調整される額=居住用賃貸建物にかかる消費税の額×課税される賃貸割合

課税される賃貸割合=課税される事業用の賃貸料÷3年間の賃貸料合計

例)
居住用として貸す建物を購入などしてから3年目に、店舗などの事業用として貸すことにしました。1年目と2年目の居住用として貸す建物の家賃の合計が2,400万円でした。3年目に事業用として貸した家賃の合計が1,600万円でした。課税される賃貸割合はいくらでしょうか?

課税される賃貸割合=1,600万円÷(2,400万円+1,600万円)=40%

居住用として貸す建物を購入などするときにかかる消費税が1,000万円だった場合は、1,000万円×課税される賃貸割合40%=400万円が、事業用として貸した3年目の仕入税額控除に加わえられます。

居住用の賃貸建物を売却した場合

事業用として貸した場合と、同じ考え方になりますが、計算などが複雑になります。実際に決算などで必要になった場合は、税理士など専門家に相談するのがよいでしょう。

まとめ

・令和2年度の消費税法の改正により、「居住用の賃貸建物を取得するときにかかる消費税」の仕入税額控除ができなくなり、改正前の特例措置もなくなりました。
・ただし、改正後も、居住用の賃貸建物の取得から3年以内に「事業用の賃貸として転用した場合」や「賃貸建物自体を売却した場合」は、一定金額を仕入税額控除に加算調整できます。

近年、毎年のように税制改正が行われていますが、今後もこの流れは変わりそうもありません。常に新しい情報を入手し、理解し、対策していく必要があるでしょう。
居住用の賃貸建物など、ご不明なことなどございましたら、お気軽にSMC税理士法人までお問い合わせください。

SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 税務処理、確定申告 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

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よくあるご質問

仕入額控除を違反して行った場合は罰則がありますか?

1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課されることがあります

居住用建物の家賃が課税売上にならない理由はなんですか?

消費税導入当初は住宅家賃も課税対象でしたが、平成3年から社会政策の一環として非課税対象の拡大が行われ、その中で住宅家賃も非課税となりました。

不動産賃貸業はインボイス制度に登録する必要はありますか?

事業用建物も所有しているのであれば課税売上になるので、インボイス制度への登録が必要です。しかし居住用建物しか所有していないのであれば消費税が発生しないのでインボイスの登録は必要ありません。

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このコラムの著者 : 舩田 卓

1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。

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